葉leaf

人の背中が街の青い空気に裂け目を入れている。人の一部は気化してその裂け目を出入りする。裂け目の奥では昼めいた祭壇が、硬い光に包み返されている。祭壇の上では討たれた臓器が、自らの内部をけわしく循環している。「ゆがんだ色を集めて、街の乳房を塗り分けようか?乳房をみたす樹液の濃度は俺を狂わせる。」臓器の表面はしばしば突起して、しずかに漂う時間の曲面を突き抜ける。臓器は告白する、街の粒子の秘された準位について。臓器は転出する、無数の場所が溜まっている同じ場所へと。気化した人の一部が臓器の管に入り込むと、そこは元の街である。だが人は、街の裏面に走るすべての燠火から、どろどろした影像を描きとってしまっている。

街は耐えきれない、人の帯から分泌される割れた光線に。人と人とが約束を結ぶと、それは形のない刀となり、街の粒子の合間を縫って街の中枢を刺しに行く。人の帯は刀に巻きついて、街の中枢の死んだ弾頭をえぐりとる。「建築に燃え移る日の曲率を呑み込んで、俺はひときわ構造する。飛び散る言葉に額をぬらしては、はげしく樹木する。」街の中枢からはがれた痛みにより、街の地面はさかんに膿みはじめる。地面からは街の神経(円錐植物)が生え出て、自らの内部にはね返されている。はね返った岩の勢いで、神経は人々を刺しつらぬく。人のしぐさは人を取り巻く空間に記憶されていて、それらが一斉に人の手足を街の神経に熔接しはじめる。

道沿いに張られた絹糸を鳴らして人がほぐれるとき、街はしずかに輪郭をやわらげる。手の一振りごとにひろがる気流の刃先に、人はもはや街を描かない。けれども、人は街の表面をさがしているはずだ。街の表面はつみびとの肌でできた皮膜であり、建築や舗石の肌を映し、街の粒子を降らせている。「人と街とが合わさるとき、俺の視覚は街へとながれ込む。氷の繊維にもぐり込み、俺は人々に指先をあたえる。」例えばジドウシャの窓を覆う街の表面は、すばやく自らを脱ぎまた自らを着込む。人の視線はこの運動によりたわめられ、世界に血を通すことしかできない。

「俺は街の表面から人々をけずり取り、幾重にも引かれた街の軌道からはずれてゆく人の波を嚥下する。俺は臓器のめくれを味わおうと一次元の舌になるが、臓器のめぐらす林の曲線に巻きつかれて、五次元の船板に戻される。俺は街の裏側のさらに裏側で、鋭く重い斜線の束を街の中枢に癒合させる。俺は街に棄てられた首の類から、街の粒子を生産し、精産し、生散する。街が俺の裏側へと回帰するまでは、俺は街の軌道をひときわ寒い方角へと導かなければならない。」


自由詩Copyright 葉leaf 2006-05-28 16:20:35
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