狐月夜の物語 (三つの狐つきのうた)
降旗 りの

「狐つき」

こん と ないてはなりませぬ
こえをあげては なりませぬ
とられたくない だいじなものは
かくしておかねば なりませぬ

くらいよみちは こわいけど
ふきさすかぜは つらいけど
ひとさまよりは やさしかろ
ひとのにおいは ないけれど

かあさま だいてくださいな
かみをとかしてくださいな
とうさま むかえにこれぬなら
せめておふみをくださいな

こん と ないてはなりませぬ
しっぽをみせては なりませぬ
かげをふまれて つるされたなら
やまのおうたも きけませぬ


「きつね月」

きつね なきます つきのよる
おちちがはって ねんころろ
だいてたあのこは どこいった
だいてたあのこは さとのむら

うそをついたら したぬかれ
うそをつかねば ねんころろ
うそをいわせた かのひとは
したのいたみも しらなんだ

おわれおわれて つきのよる
だいてたあのこは もういない
こよいはかぜが つめたかろ
こよいはゆびが つめたかろ

きつね なきます ねんころろ
ひがくれるまえに みたほしは
あのこがなくした すずだろか
あのこがないた かおだろか


「きつねつき」

かごにのせられ まいります
わたしをしらない あのまちへ
はるにははなが さくけれど
はるにはとりも なくけれど

しらないかおの しらないひとが
わたしをとおりすぎてゆく
はるにははなが さくけれど
はるにはとりも なくけれど

なくしたうたを うたうのは
つきがあんまり まるいから
なくすものさえ なかったら
つきもなみだに しずまぬものを

かごにのせられ まいります
わたしをしらない またまちへ
はるにははなが さくけれど
はるにはとりも なくけれど


自由詩 狐月夜の物語 (三つの狐つきのうた) Copyright 降旗 りの 2006-05-27 23:41:28
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