体温
蒼木りん

きょうは
やけに電話が鳴り
訪問者が多かった

以前に
外構の見積もりをお願いした人が尋ねてきたとき
早く工事をお願いしたいのだけど
いろいろと
入用があって
それに
今度親がいっしょに住むことになって
と言っているそばで
目が潤んできた
ごまかして
そのときにはよろしくお願いしますと
お辞儀をした


だんだんと
機能が低下してゆく脳が
珍しいことを思い出した

白い獅子が二匹で追いかけて来る
農道を
耕運機に乗って逃げる私と家族に
恐ろしい顔をした獅子が追いついて
妹の頭にかじりつき
妹の頭は惨たらしいハゲになった

子どものころ見た夢
獅子は
屏風絵に描かれているような
あんな顔だった

きょうは
やけに電話が鳴り
訪問者が多かった
そして最近は
用事が多い

一人きりの休日は
これからはなくなる
私としての私も
後回しにしてきた感情も
表には出ぬまま消えてなくなるのかもしれない

一昨年までは
未熟ながらも
私でいて
許されていた
たぶん

これは無知の罪なのかもしれず
細く降りつづける雨に
傘を無用とした私は
濡れて耐えるしかないのだろうと思う

自分の体温だけが
自分を温めている


未詩・独白 体温 Copyright 蒼木りん 2006-05-27 22:27:41
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