鰯雲
暗闇れもん
叫んでいるよ獣のように
神を呪い、地に唾を吐く女が
両手を広げ、空に向かって悪態をつく
何故、わたくしではないのですか
女の声が空高く僕の元へと届く時には
もう既に人ではない別の生き物だろう
僕が殺めたカブト虫か、はたまた僕が殺めた我が子のように
痛み苦しかったかい
ごめんよ、ごめん
終わることの無い炎の中で僕は焼かれ続ける
泣きはしないよ
生まれることさえ叶わなかった我が子を思えば
おぎゃあと泣くことを許さなかった我が罪を思えば
熱き炎に焼かれ、僕はどうやら鰯になるらしい
泣きはしないよ
誰かの胃に入るそんな一生で十分、神は僕を救って下さっている
それに
鰯となった今ではもう
誰かが僕に針を刺し、切り、焼き、皿に盛り、たいらげる
そんな見知らぬ誰かを幸せにしたい