夜の散歩者 〜 反射鏡を探して 〜
服部 剛
今夜 私には
逢いにゆく人がいない
孤独な夜の散歩者は
アスファルトに響く雨唄と
ビニール傘に滴る雨垂れの
二重奏に身を浸しながら
果て無い雨の夜道を彷徨う
「 今頃君はどうしてるのかな・・・ 」
と人知れず心に呟きながら
*
( 思春期の頃
( 真冬の深夜に上着を重ね
( 白い吐息を夜闇に昇らせ
( 一心に自転車のペダルを漕いだ
( 辿り着いた駅の屋根上には野良猫の塒があり
( 投げた石ころで音を鳴らすと
( いつも野良猫は駆け寄ってきた
( 無人の駅のベンチに忍び込み
( 包んだマフラーの隙間から
( 時折漏れる鳴き声を聞きながら
( いつまでも膝の上で暖めていた
*
振り返れば
自分が望む「型」に誰かをはめてしまう度
身勝手な愛情に
互いの骨はいつも
鈍い音を立てて折れた
いつからか
想いを寄せる誰かを
遠くから眺めたまま立ち尽くしている私の影は
人知れぬ雨の夜道を歩き出す
*
今夜 私には
雨宿りの場所が無い
孤独な夜の散歩者は
アスファルトに響く雨唄と
ビニール傘に滴る雨垂れの
二重奏に身を浸しながら
雨の夜道の向こうにいる
君の服に透けて見える反射鏡と
私の服の下に嵌め込まれた反射鏡が
一瞬の光を照らし合う
夢を見る