サダルスードの星の下
佐々宝砂

ある年の秋
青空に爆炎のあがる映像を見た直後
私は外に出て夜空をみました
九月の半ばでした
ひくい空に
みずがめ座がじんわりと広がっていました

みずがめ座の星サダルスードは
大地に幸運の光を投げかけていましたが
私にその光は熱すぎるのでした

今この地はすっかり春です
今日はツクシを見かけました
隣の庭では桃が咲いています
日が落ちますと
空には真珠のスピカが輝きます

でも私が思い出すのは
あの秋空のサダルスード

幸運のサダルスードの星の下
あるひとは沈黙し
あるひとは歓喜し
あるひとは激怒し

私はたぶん・・・
少しばかり泣いたと思います

でもいま私は泣きません
サダルスードの光が熱くても我慢します
みずがめ座の星の下に生まれた私は
こう見えても
ゼウスの酒杯に享楽を注ぐガニメデの眷属です

ならば世界の酒杯に美酒を注ぎましょう
とびきりに芳醇なかぐわしい美酒を注ぎましょう
世界のゼウスらが酒に溺れて
戦のことなど忘れてしまうまで

楽しみを唄い歓びを唄い
疲れ果てても踊り続けましょう
世界のゼウスらが享楽に酔い潰れ
崇高な大義などみんな忘れてしまうまで

だから幸運のサダルスードよ
私に歓びの巧みをお与え下さい
清らかな真珠のスピカにはなしえないかも知れぬ
この春にふさわしい
俗世の歓びの巧みをお与え下さい


自由詩 サダルスードの星の下 Copyright 佐々宝砂 2006-05-22 19:21:47
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