ノート(寝息)
木立 悟
背中に負った
水の赤子が
たぷたぷたぷたぷ
寝息を立てている
雨の日 かさをふたつさし
雪道の上をざつざつ歩くと
まわりからたくさんの
水の寝息がやってきて
独唱と合唱
詠唱を繰り返す
ときおり犬と鳥が
少し遅れて猫が
評をはさむ
評が評を呼び
また評を呼び
雲から雲へ伝わってゆく
わたしは黙って聴いている
雨が雪になる近い音
雪が雨になる遠い音
異なる午後の水を受けて
閉じてはひらく瞳の音
転がるような寝息の音
幾度も触れにくる音を負い
わたしは黙って歩いてゆく
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