十字路の見取図
霜天

もちろん、そこにはいくらでもあった


今を今として見てみれば、行き詰っていたのだろう
記憶にあるものを少し、震わせてみれば
確かにその街はどこに行っても
なにかしら行き止まっていて
そこに張り付いた影は、甘さや辛さ、酸味といったものまでも
おもちゃ箱をひっくり返したようなでたらめさで
孕んでいて
そこにいる、ということが
氷砂糖を飲み込んでしまった後の
いつまでも張り付く違和感
そんなふうに、君の胸にも残されているようで


耳を澄ませば、見えるんだと思っていたことが


十字路が、また十字路を呼んで
次を左に折れてもまた十字路がある
鳥の視線で見下ろせば、きっと神様単位のチェスが出来る
この街はずっと、そんな街だ
斜めに建ったアパートが
絆創膏で塞いだような窓をいつかは空に届けたくて
西日の回転にあわせてその身をよじらせて
また傷を増やしてしまった
相変らずそこらじゅうで行き止まっているけれど
とりあえず踊る、くらいの道幅はあった
変わらないものは好きなんだけれど
吐き出されないその続きは、氷砂糖の溶ける速さで
君も引き摺っている、ように見える


答えが答えにならないうちに




伝えよう、と思っていた言葉はどうやら違ったようで
  (君が返事をしながら、部屋を出て行きます)

それではと振り返っても、いつも壁ばかりで
  (まだ靴音は、反論出来るほどの響きを残しています)

まだ、春も来ていないのに
  (僕らは今ここに、夏です)

支度のひとつも、出来ないままに
  (君は窓から飛んでいくのです)




ひとり、地図を見下ろしています
その目で誰かのことを見てみます
いくつかの物語の終わった場所に、ばつ印を加えていくと
不思議と円になるのでした
誰かの忘れた小道具を
薄い西日に身につけてみると
違う自分になれる、ような
そんな気持ちは一瞬でしょうか

今も
十字路は十字路を呼んで
右に曲がった先には左の十字路があって
どこまでが十字路か、分からなくなってくる
とりあえず落ち着けようと
チェスをしようと
ひとり、思うのだけれども


自由詩 十字路の見取図 Copyright 霜天 2006-05-20 03:14:45
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