白い紙ふうせん
佐野権太
故郷
(
ふるさと
)
に近づく列車
向かいに座った女性は
首のすわりかけた赤子を
前向きに抱えていた
一瞬、驚いたあと
すぐにうつむく仕草は
内腿の
痣
(
あざ
)
を
男子生徒にからかわれていた
あの頃と少しも変わらない
若くして結婚したという
今は独りだという
灰碧
(
はいみどり
)
の瞳、細めて
流れゆく景色の向こう側に飛ばした
うまく、いかないもんね
愚図りだした赤子を
揺すり、あやす手つきは
すっかり母親で
僕はまだ
東京に勤めたばかりで
初めての帰郷で
自由詩
白い紙ふうせん
Copyright
佐野権太
2006-05-18 10:24:58
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