アドリブ集
藤原 実


 #1


古い額縁の中の絵のように
魔法瓶から注ぐ月の香りの記憶
彼女は退屈な卵
ブルーの仔犬のマーキング
散文的散歩のブルース
悲しみのダンス
ステップなキャラメルくちに
ブラウン管ベイビイ
走査線で屈折する感情
分裂しながら成長する孤独の遺伝子
街はネオンのスフィンクス
虹色の猫の轢かれた死骸
地中を掘り進むトンネル
アタマの中はスパーク (雷ラライ!) やがてシャワア
人類なんてシガー
歴史なんてネクタイ
マイ リトル セルフ
スパースタアラライララバイ
バイ


                    1998/05/12 23:48


 #2


夢を分解したら日常になる
火を分解したらトマトになる
僕を分解したら礼儀正しい猫になる

*  *  *

詩を分解したら翅になって飛んでった
また志になって地を這った
また死になって歴史の皺になった

*  *  *

詩の皺は
魂をふかく刻んで
分解するので
詩人の顔は皺だらけになる
「ぼくたちはお互いに愛しあわなければならない
さもなくば死を」
と告げた詩人の顔を見よ

*  *  *

蝋細工のコトバ使い
愉快な言語遊戯詩人たち
溶けてゆくのか
燃えながら
不妊の卵のごとく
曇った内面を直立させて
奇異奇異と鳴きながら
イメジは飛ぶ。

*  *  *

抒情詩はプラットフォームから
出発して
無人の駅についた
一服シガーをふかしてから
魂色の夕焼けに向かって
歩を進めた


                    1998/05/18 20:38


 #3

おれのチューンナップされた時間エンジン
直接、という歌のカヌーに乗って、行く
五月の空の下 脳髄の棘逆立ち散歩に行く
あるところでは一匹の黒猫が時よりもすばやく駆け抜け 影がその後を追い
あるところでは縄跳びのふたりの少女ブレンドされ路地裏の夕焼けにとけ込み
あるところでは人差し指のない女の過去の愛欲にくるう
あるところではアリスの手足 胴体より流れだし地球を抱き
あるところでは玄関をあけると ハローと牡牛がハモニカふきながらド
の音がでないのと言い
あるところでは電話ボックスで愛も憎悪も孤独も裏切りも感傷も狂気も
季節も歯も紫の髪も燃えるのだった・・・

「あるところにはあるのよねー そうそう話しはかわるけど
あのひとはコセー的ね、なんていわれるひとに個性を感じない
そもそも個性とはギャクセツで
かっこいいことはなんてかっこわるいんだろう
と歌ったひとは正しかった
きれいな女の人はトクね
なんてそうじゃない女の人は言うが
どんなにがんばっても
表面的な美しさばかり強調されるので
才能があってしかも美しい人は鬱屈しているとかいう話だ
ちなみにわたしは表面的な美が嫌いではない
いくらきれいでもタマシイが籠もってなけりゃ
なんて力説する人もいるが
表面的なタマシイというのも存在すると思う
豹変するタマシイというのも自由でいいと思う
でもその場合美に殉じるようなカクゴが必要で
そうじゃない場合はじつに中途半端で
個性という角を持たないぶん
お肌の曲がり角を過ぎるとともに坂を転げ落ちるように美の世界から消えていく」

ふつーのひとをどこまでもみつめているとふつーでないものがあふれてくるので
なぜならほかのだれでもないそのひととしてそのひとは存在しているのでそもそ
も谷川俊太郎サンの詩はそういう詩なのでそのおもしろさにきづかないひとは遠
いものを連結しているけれど現代は世界中が連結してしまうのでそれに負けまい
とさらに遠いものを連結しようとするのでナンカイなコセーだ
そもそも近いものを引き離すのはマイナーでめだたないけれど案外これからおも
しろいかも そもそも
魂は形式
と田村隆一は書いた
でも信じられない
表現は策略であり いわば演技過剰の俳優のようなものだ
ほんとの詩人は何ひとつ表現しないし
何ひとつ想像しない
ただくりかえし
捧げるのだコトバに
自らを問いの形として

「あらあらそれはナンカイね」

ああムズカシイことはわからないけれど直感でゆるしてほしい
そもそもなんで詩で詩についてしゃべるのかといえば
そもそも詩とはなにかについて誰も明確な答えをもたないのでいつも考えながら
それは不安であるが詩を書きながらこれは詩だろうか詩ではないだろうか
と意識が流れ出すのでついつい自問自答してしまうのだ

「どうしましょう」

そもそもそういうことにしてもうこれくらいにするのだ いつもおれは
あなたは
これを詩として認めますか?と挑発したりして……失敗するので
そろそろおれも良い人間関係について学ばなければ そしたらこの詩を捧げたい
ひとがいるのです

「あらあらどうしましょう」



                   1998/05/23 1:51


 #4

 『アイデンティティ』

お空から雲がおちてきたので
みんなで見に行ったら
わたがしみたいにしぼんでいた

のらネコのアルバアトがやってきて
雲をたべてしまった すると
アルバアトは地上から5センチくらいのところに
うかんでいる
と みるまにライオンになってしまった

  わおう オマエののうみそが食いたいよ

とアルバアトがいうので
ぼくの夢のなかに間借りさせてやることにした

ぼくがキッチンのテーブルの下にかくれていると
女先生がロープをもってやってきて

  わたしがライオンをつかまえてあげる
  さあ 夢のなかからアイツを追い出しなさいな

テーブルの上ではコロンブスが
卵を立てている


                    1999/02/05 1:34


 #5




樹々が成長する
透明な意志でもって
魂は崩壊する
孤独な意志で

ひとは過去から追放されて
今日という日に
押し出された

ひとは母の胎内で
分裂しながら成長した

私たちが細胞分裂するのは
孤独な遺伝子をもって生まれたからだ

ブラウン管ベービーたち

走査線のプリズムで
感情が屈折する

リセットリセットリセットリセットリセット
リセットリセットリセットリセットリセット

別の運命 別の記憶

床下の収納スペースに母

女神のキッチン 

わたしが瞑想する地面の下を
今日も誰かが穴を掘り進んでいる

たしかに


                    1999/05/11 22:22


 #6


イメージ。

くりかえされるモノローグは卵に打ち付けた釘。それは剃刀によって捲れあがる
感情の薄い膜に代入される幕間の狂言として、発光する闇の中をはじかれながら
疾走する遠近感によって対話されるだろう。レターボックスも燃える閑かな昼下
がり、釣瓶を落とす青空は深い井戸。マン・レイの震えるくちびる。ガラスの溜
息のように深い秋。月と太陽。今、触ろうとするのは発端と終焉の均衡。サー・
アルフレッド・ヒッチコックの退屈な心臓は熱望する、ルイス・ブニュエルの引
き締まった義足を。携帯電話は魂の位牌、機械仕掛けの巫女。散乱するのは壊れ
た自我、薔薇、水滴、燐寸、手術用手袋。おお、この憂鬱な積み木を突きくずし
てくれないか!キミの愛のアドリブで!
鏡の中の積み木がくずれる。すると・・・・・・世界がくずれる。忘れられた部屋の北
窓を開くと揚羽蝶が群れ立つ。メッセンジャーは肉体を持たない影で、雲を持た
ない雨のなかを歩く。寒い卵が割れる。柩の中のせんちめんたるな死体は成長し
つづける。「去年の秋、手についた曼珠沙華の紅い色がいくら洗ってもおちない
の」。埋められた犬がザンゲと吠える。キミのお喋りがキミをもっと惨めにする
とき、すごい音のオートバイがコーナーを廻ってくる。過去はぎっしりと釘のつ
まった壜。告白されても、その蓋を開けるべきかどうかとまどうばかりだ。パイ
プという実体のくゆらす脳髄の祈りがテーブルクロスにされたピカソのなぐさみ
になるだろうか?未来という額縁に野火炎立つとき、コーヒーカップにエコーす
る半鐘の問いかけ。ギター、蝙蝠、痙攣する伽藍のような深い眼差し。恋と放火
魔と錠剤。

これらはすべて観念にすぎない。ただ非日常性に震える夏の光りだけが現実なの
だ、Please Kiss!


                    1999/05/16 0:02


自由詩 アドリブ集 Copyright 藤原 実 2004-02-15 14:33:13
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