ポイ
ケンタロウ

傘を持つ手では君の手は握れない
君は僕の右腕に左腕を絡ませて寄り添った
ちょっとくすぐったくて恥ずかしい
そんな些細な幸せが大切だと最近になって分かった

上野動物園 あいにくの雨だけど
僕らはニンゲンのふりをして
他人から見れば幸せそうなデートをした

いつの記憶か
8月の下旬
隣町の夏祭り
金魚すくいの前で
泣いている子供は誰?

破れたポイ
救うことができなかった
僕の心のようで
君はいつから泣いていて
君はいつから助けを求めていたの
僕は気がつくことが出来なかった
助け出すくらいの力がない僕の心は
いつ濡れて破れてしまったのか
いつから気がついていたの 君は
あの日の傘の中でキスをした
そんな昔のことなんて忘れたのかな

泥だらけの靴で
がむしゃらに走った
埃まみれのジャージ
校庭の夕ぐれ
君は
楽しそうに
学級委員の女の子とおしゃべりしながら
自転車で
校門を出て行った
僕は立ち止まり
君の影を追った
どこまでも
どこまでも

今夜の夏祭り行くのかな?

あの日と変わらない
そんな夕日が
今日も沈もうとしていて
僕は今年で24歳だけど
あのとき破れたポイはそのまま

あいにくの雨の動物園
売店でソフトクリームを買って
屋根の下で、舐めあったね


・・・今夜どうしようか?
・・・どうって?


僕らは黙った
そして鶯谷の
窓の外の雨をぼんやりと眺めていた





自由詩 ポイ Copyright ケンタロウ 2006-05-14 21:49:02
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