美しい世界
虹波

倫理だとか
秩序だとか
やけに耳障りのいい言葉で
人間達は
美しい世界を創る

地上には
美しく幸福になれる食べ物が豊富にある
美味しいだけでなく人の健康を助けるからと
ありったけのお金を注いで
大量に持ち帰り
一日三食必ず食べなさいと言って
皆にふるまう
食べきれなかったものをそのままにしておくと
とても不衛生なので
美しいデザインのゴミ箱を作って
美しく捨てる

家の中はいつも清潔にしなければならないと
母に言われているので
美しく掃除する
ばい菌は人を病気にするからと
美しい香りのする美しい色の液体で
美しくガードする
害虫は人の生活を乱すからと
美しく殺す

違う国では
お金もなく肥えた土もない
人が人を食べるまでしてかろうじて生きている
美しさで輝いている幸福な国は
その国の状態を
非人道的だの不平等だの狂ってるだのと言って
美しく批判する

そんな美しい国から
捨てるほど大量に調達した美味しい動物の肉が消え去る
美しいお店と美しいお客は
「ありがとうございました!」
「頑張れよ!」
と美しい涙を流す
美しい貴婦人達はその一方で
美しく新しい食べ物に夢中
馬肉のようです

そう国を俯瞰しているような私は
正真正銘この国の美しい女(のはず)
常に美しいドレスを身にまとい
美しく顔を飾り立て
美しい男を呼び寄せて
美しく生きる
この世界が教えてくれた
倫理や秩序と名のつくものを振りまいて


ああここはなんて美しい世界
美しすぎて眩暈がする
皆狂ったように踊っているよ
美しいネオンの下で
私も思わずステップを踏んで
美しい世界の一つになる


ああここはなんて
無秩序な世界
儚い世界 


自由詩 美しい世界 Copyright 虹波 2004-02-15 03:30:42
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