きずな(母の日に思いを寄せて)
恋月 ぴの
それは言葉にならない思いであった
母は母であった
息子は息子であった
いずれは離れ離れになる定めだった
『ふたりは生き別れる』
それは別段、不幸なことでもなく
いつまでも悔恨に捕らわれることでもない
雨が降れば傘を差し
雨が止めば傘を閉じ
何処かに置き忘れた一本の傘の様に
別れは当然にして訪れるだけだ
『ふたりは死に別れる』
どちらが先に死のうとも
それは別段、不幸なことでもなく
いつまでも悲嘆に暮れることでもない
全てのものは海より出でて
全てのものは海へと還る
明けの浜辺で見かける一体の屍の様に
死は当然にして訪れるだけだ
それは言葉にならない思いであった
母は母であった
息子は息子であった
一両の黒い貨車が原野を駆け抜けて行く
貨車には母と息子が乗っていた
薄暗い天井で電球ひとつ震えていた
屋根で風車がカラカラ音を立てていた
レールの継ぎ目がゴトンと鳴って
何処までも雨雲が重く立ち込めていた