逆立ちの位置
霜天

言葉を逆立ち、させてみても
結局、詩にはならなかった
考えてみれば当たり前のことでも
泣いている自分は誰、なのだろう
逆立ちした言葉は、はらはらと零れて
何でもないもの、になってしまう




ゆっくりと
断片
が迫ってきて
僕はとりあえず洗濯を始める
頭の上で瓦がカタカタと鳴るので
一枚だけ、そっと抜いてみると
屋根は屋根じゃなくなって
全てが剥がれ落ちてしまう
白いTシャツを、音がするほどに引っ張る
石鹸の匂い
眠れなかった記憶や夢の話
暖かい午後、という午後に
手を広げてみる

逆立ちをした後の手のひらは
まっくろ、というわけじゃなく
白かったり、黄色かったりした
富士山が見える、という丘の上から
逆立ちをしてみても、思い描いたイメージは
思い通りにはいかなくて
立ち上がって、手のひらに付いていた
何でもないもの
を、ぱんぱんと払うと
じわり、と胸に広がるものが
いつまでも、引き摺ってしまう




そうして
驚くほど単一な空の色や
混ざろうともしない人の声を
振り分けることもしないで僕は
何でもないものを
何とか詩のかたちにしようとしている
暖かい午後、という午後
口の端から漏れたのは
誰でもない声だった、かもしれない


逆立ちをした後の
あちらこちらへ飛び交う心音
それを聞いてくれる君たちは
なぜかいつまでも優しかった


自由詩 逆立ちの位置 Copyright 霜天 2006-05-13 20:21:49
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