丘に立つ
夕凪ここあ

丘に立つ
ただ背伸びばかりして
何にも手が届くことがなくても、
輪郭を名乗っていた頃より 透明がはっきり見えるようになりました
透明を知った私は、そのかわり
色が体の底のほうに溶けていって
もう 二度と夕暮れには出会えない、

声はすっかり風にかわって
私の行きたい場所へは届いてくれずにまた溶けてった

手紙が、まだ私の手元に残っていて
透明に染まる前に せめて断片でも届けたい祈りは
あなたの耳のすぐ後ろを通り過ぎたって 
ささやきほどしか聴こえない

あの頃より少し痩せた指先が、
あの頃と何も変わらない優しさが、
私の描いたスケッチが少しだけぼやけ始めて、
そこに描かれた景色が何処だったかわからない、
わからないまま私がまた透明に近付いていく、
あなたが過ごす昼下がりに。


あぁ、透明はそんなに哀しいことではないよ




丘に立って
考えごとをしていたら
私が溶ける日がやってきて
すぅっと お母さんのような温もりの風が吹いて
私の足が腕が指先が透明に千切られていくのを覚えた
風に乗って私のいた場所を見ると
あれはいつか絵に描いた桜の木
私は生まれて 花びらになって 今度こそ
声こそないものの一枚の手紙になって
私は






自由詩 丘に立つ Copyright 夕凪ここあ 2006-05-11 01:45:25
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