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士狼(銀)

母は優しい
兄貴より遥かに出来が悪い俺は、
絵が好きで詩が好きで、なんだかいろいろ中途半端で、
でも、
生まれてきてくれて本当に嬉しいのだと
臆面もなく言うから
俺はいつもあなたの目を真っ直ぐ見れない
知らなくていいよ
俺がどんだけ嬉しかったかなんて

母は優しい
不幸な事故をニュースで見ると、
可哀相だと涙ぐみ、変わってあげたいくらいだわと呟く
でも、
もし本当にあなたが変わってしまったら
俺が可哀相でしょう
他の誰が身代わりになってもあなたは駄目
知らなくていいよ
俺がどんだけ怖がってるかなんて

母は優しい
時々生きるのが辛いという愚痴に
親より先に死ぬことほど、親不孝なことはないのと俯く
でも、
俺にはあなたたちの死を見送れるだけの
勇気なんてないんだ
隣のお姉さんの死は甘受できたとしてもね
知らなくていいよ
俺がどんだけ家族が好きかなんて

俺は弱い
そして醜い
さらに卑怯だ
人間が嫌いだと言いながら
人肌が恋しいとぼやくんだから

俺、将来アフリカで暮らそうと思ってるんだ
そんで、村役場で働くマサイ族の友達とか出来たりしてさ
四十歳ぐらいで多分死ぬと思う
兼好法師もそれぐらいが見苦しくないって言うし
らいおんに喰われて死ぬのが、
そこそこひどい俺にはぴったりだと思う
だけどあなたたちは知らなくていい
『恋愛寫眞』にあったみたいに、手紙を書き溜めておくから
きっと友達に頼んで毎月送ってもらうよ

『千の風になって』を書き写して
俺はあなたに出来る限り報いる努力をしよう
母の日にはいつもみたいに
真っ赤なカーネーションを送るから
またリボンだけでも、桐の箪笥に入れといてよ


自由詩 no-title Copyright 士狼(銀) 2006-05-06 19:04:49
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