咲いて欲しいのはワタ野原じゃない
あみ

決行の日
せんたくを間違えないようにする
柔軟材は嫌いだ
添加されたことばを充分にすすげない
その使用法が嫌いだ


もうあらわれないのかな、ヒーロー


始発が動き出す音を聞いて
世界が目を覚ましたんだと気付く
焦って
それでもうじうじと眠る準備を後回しにしていく


地中深く
かまどで煮込まれたヒーローは未だ現れない


強制始動で迎える朝は
やたらとハイで逃げ切れる時もあれば
夜の澱を体に溜め込んで
ずるずる影を引きずったまま一日を終えることもある


平気だよ って笑うことに長けた眠ったままのヒーロー二十歳の夜


エントランスは開かれているようで
透明なガラス越しにあなたは笑う
好きだよ、と言った同じ声で
握ってるその鍵ではもう開かないんだって笑う
赤い唇で笑う


ビンを舐めるクセは未だ健在なヒーロー もうそろそろ溶け始める


赤く暖かいワインを飲み過ぎた
赤く染まった舌は
訪れるものを全て飲み込みたいと思ってる
細く
笑うセルライトになりたいと思ってる


ことばが間違ってばかりだ
ヒーロー
ほんとは大事にしたいんだ


ねぇ
無意味に叫ばなくちゃならないのはどっちなんだ?
コントロールされることにはもう疲れたんだよ
初めからルールを作ってくれれば
私はラインをはみ出さないよ


ねぇヒーロー
眠りから覚めて欲しいんだけどどうしていいかわからなくなると思うんだ
ふかふかのやさしいことばはどれが本当なのかわからなくなるんだ
今日、純粋な人を見たんだよ ヒーロー
だけどその人は臆病で淋しくて傷つきやすくてとても
愚か
だったんだ
私はふかふかのやさしいことばをかけるしかできなかったんだ
だけど
やわらかいと思っていたことばのひとつが
彼に刺さってしまったかもしれないという針が一本忍び足で




決行の日
選択を間違ってしまったと知ったんだ



自由詩 咲いて欲しいのはワタ野原じゃない Copyright あみ 2004-02-13 02:52:18
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