カンパン
壺内モモ子

腹が減った
家には何もない
金もないから何も買えない
水道水を飲む
少しだけ空腹が満たされる
それでも
俺の腹の虫が鳴く
寝て空腹を紛らわそうかと
布団にもぐりこむ

今日は寒い
寝られそうにない
湯たんぽを出そう
押入れを開ける
すると

カラカラカラ

と、埃まみれのカンパンが転がり落ちてきた

また俺の腹の虫が鳴く
今日
俺は水道水しか飲んでいない
腹が減ったから
食べてしまおう

蓋を開け
カンパンをひとつ取り出し噛み砕く

子どものころ押入れの中で隠れて食べて
「非常食なんだから食べちゃだめよ」と
母親に怒られた
そんな苦い思い出を思い出す

涙があふれる
もう一粒
カンパンを口の中に入れる

「ちゃんと仕事を見つけなきゃだめよ」と

母親がどこかで俺を叱っている気がした


自由詩 カンパン Copyright 壺内モモ子 2006-05-04 14:09:58
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