communication breakdown (1〜3)
アンテ

                      communication breakdown (1〜3)

  キュウリ

ある日目が覚めると
きみと知らない女の子が
向かい合って朝ごはんを食べていた
顔を洗って服を着替えて
もどってくると
女の子はサラダのキュウリが食べられずに
きみに諭されていた
横にすわって
すっかり冷えたパンにジャムを塗って齧り
サラダを残さず食べて
食器を流しに運んでもどると
女の子はいなくなっていた
皿に残ったキュウリを
きみは箸で口に運び
ゆっくりと噛みしめた
椅子のあたりを手で掻いてみても
なにも触れなかった
食器を全部洗いおわったあとも
きみは一日じゅう
一言も口をきいてくれなかった


  安全運転

ひどい運転だといつもきみが言うので
今日は安全運転を心がけた
規制速度を守って
標識をひとつひとつ確認して
黄色や白の線の通りに走って
無事駅に到着した
ところで今日は何時ごろ帰るの
訊ねると
きみはぴしゃりとドアを閉めて
一度も振り返らずに行ってしまった
車を停めたまま
ホームを見上げていると
階段を登り切ったきみは
ため息をついて
「7」という字を宙に書いて示した
家までの同じ道を
安全運転をして帰った


  壷

悪いことを全部吸い込んでくれる
魔法の壷があればいいのにね
なんの気なしに
そう言ってみただけなのに
きみはお茶を飲む手を止めて
押入れから掃除機を出してきて
何年か分の中身をぶちまけて
ぱちぱちと手をはたいて
またお茶を飲みはじめた
窓を開けると
部屋じゅうに埃が舞い上がった
どう 壷のなかにいる気分は
きみはごちそうさまをして
掃除機のコードを伸ばした





自由詩 communication breakdown (1〜3) Copyright アンテ 2004-02-12 12:51:08
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