「解放戦線」
k o u j i * i k e n a g a
爆竹だったら良かったのに
失敗だった焼け跡は
遠いお兄さんたちの
黒コゲでいっぱいだった
彼らは飼い慣らされて
エサを待っている
焼け跡だけが寒く
エサを待っている昼だ
もう一度
爆竹だったら良かったのに
一人の男がいる
(平凡な男でないといけない)
男がいる
家族のもとに帰ってくる
幼い娘がいる
出迎える娘は男に飛びつく
娘は凶暴だ
男にとっては天使である
凶暴だ
男は娘の額に触れようとするが
ちょっと戸惑う
自分の手のにおいが気になるのだ
色を確かめる
肌色
娘は飛びついてくる
なにせ凶暴だ
娘のキスは凶暴だ
男は戸惑った原因を忘れて
凶暴な娘を抱き上げる
お次は妻だ
妻は微笑みながら現れる
男も微笑んで
抱き上げた娘を抱えたまま
この夫婦はキスをする
男は思う
愛がある
俺には愛する権利も
愛される権利もある
これは平凡な男だ
最後に息子
生意気な息子だ
出迎えずにテレビ
やれやれ生意気な息子だ
ただいま
おかえり
顔も向けずに
やれやれ生意気だ
なあ何か言いたいことがあるんじゃ
ないよ
本当はあるだろ
なんにもないよ
どうせお前は
やめろよ、と息子は二階へ
やい、逃げるなよ
うんざりする息子は
おい、一言だけ言っておくぞ、この人殺し、と言って
この男は息子を殴るのだ
なにせ平凡な男だ
自分が外でしてきたのと
同じようなことを息子にして
幼い娘を泣かすのだ
凶暴な娘は泣くのだ
兄を殴られた娘は泣くから
妻は止める
男は思う
俺が苦しむのはなぜか
平凡な男は悩む
彼には答えが用意されていない
彼は夜中にテレビを見る
おいおい
この映画では俺みたいな
若く醜い兵士が歓迎されている
ガキどもは若い兵士の戦車を
憧れと敬意に満ちた眼で
見つめているじゃないか
なのに、なぜだ
なぜ俺は
彼は本当に平凡な男だ
失敗だった焼け跡は
薄いお兄さんたちの
生き埋めが山積みだった
彼らは飼い慣らされて
エサをほおばる
焼け跡だけが寒く
エサを求め歩く昼だ
最後にもう一度
爆竹だったら良かったのに