すっぽん
からふ

水槽の中ですっぽんが首を伸ばして
息継ぎをしている
明日のことを考えているのか
昨日のことを考えているのか
何を考えているのか分からないが
じい っと
月を見ている
もうすぐ月がしずむ
もうすぐ月がしずむ



見事な満月だね
たぶん世界中のオオカミが
遠吠えをしているだろうにね
君は鳴きもしないで
だまって月を見ているね
だまって、いるね



ぼくはすっぽん料理屋をしています
今、彼の隣にいるすっぽんを
不動産屋の社長のために料理しますので
今日の残りは彼一匹です
すっぽんはお疲れさまとは言わない
ぼくをじい っと見ているだけで
なにも言わない



水槽の前の「手を近づけないで下さい」と書かれた看板を
今日は「手を差し伸べて下さい」に変えたかった
多分、彼は噛み付いたりしない
差し伸べられた手を
見もしないで
ただ月を見ているだろう



すっぽんはことわざを知らずに
月をじい っと見ているだけで
比べられていることも
何も知らないで
じい っと青く瞳を眠らせている



ぼくはことわざを知っている
すっぽん料理屋のぼくも
比べられるということを
知っているが
じい っと目をつむったままに



月を料理する地球に
目を背けながら
削られていく月を
すっぽんにかさねないようにしながら



もうすぐ月がしずむ
すっぽんは何もしらないで
じい っと月を見ながら
息継ぎをしている


自由詩 すっぽん Copyright からふ 2004-02-11 16:21:44
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