プルーフロック氏に贈る恋唄
佐々宝砂

さて、ひと思いにやってみようか。
どうきりだしたらよいのか。

「アルフレッド・プルーフロックの恋歌」 T・S・エリオット



さあ、一緒に出かけよう、私とあなたと

麻酔かけられ鎮静剤飲まされ拘禁服着せられ横たわり
もう若くないからなんて言ってる莫迦な頭を張り飛ばせ
だいたいこれは全部あなたのせいなのだから
今夜の食事なんか心配しないで
大丈夫、コンビニで弁当とお茶を買えばいい
なんならビールとジャーキーも
しゃきりと顔あげ曇る眼鏡を拭いてみれば
知り尽くしたはずの街に見慣れぬシグナル
窓はみんな割れてしまった
三角の窓も王国の窓もいちご色の窓も
砕け散ったガラスで赤毛を飾ろう
そのうちビルも崩れてくるだろう。

だから、出かけよう、一緒に。

宇宙をかきみだすと約束したのは誰?
私のやせた腕を知っていると言ったのは誰?
光も闇も夕暮れも朝焼けも晴天も曇天も
何もかもすっかり知っているって威張ったのは誰?
道化た半ズボンに真っ赤な血飛沫ちらして
笑いをとったって悦びながら泣いていたのは誰?
コーヒーの匙で人生を計るつもりなら
宇宙をすみからすみまでかきみだしてからにして
もがきまわって壊れて崩れて得体の知れない物吐き出して
私の赤毛をどろどろ汚してからにして。

信念怨念諦念理念ありとあらゆるねんねこねんねん
行きはよいよい帰りは怖い怖いながらも切りだせば
誤解痛快曲解爽快奇ッ怪至極な修羅場は極楽
猫も呆れる金切り声のカンツォーネ。
何はともあれ待っていたとてはじまらない。
私を待たせた奴はみんなぶちのめしてやるつもり
太陽もゴドーもアンゴルモアの大王も
ネクタイが気に入らないからって締め直したりしないで
とっととここまでやってきなさい、きなさいってば!



私はたぶん昔のようには若くない。
痩せすぎた胸はうすく
筋ばった腕には張りがない
やわらかな曲線なんかない
その気になればあばらを数えることだってできる。
私は美しいヒロインだったことがない
なりたいと思ったこともない、なぜなら
ヒロインにはヒーローが必要だからだ。

ヒロインじゃないから私はここにこうして立ってる。

暮れかかる空ゆるやかな軌道をえがいて何かが飛ぶ
あれがUFOだったらいいのにと思いながら
私は仰向いて歩く。
禁欲という快感、饒舌という沈黙、過剰という不満。
私はどこまで壊れたらいいのだろう。

きりもみしながら
ちっぽけなUFOが私の膝に落ちてくる。



自由詩 プルーフロック氏に贈る恋唄 Copyright 佐々宝砂 2003-07-23 00:39:24
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