壁に吊るされた学生服
服部 剛
日曜日の朝
シャワーを浴び
鏡の前で髪を整え
襖を開け
薄暗い部屋を出ると
何者かが袖を引っ張った
振り返ると
ハンガーに掛けられた
高校時代の学生服の
襟を留める爪が袖に喰い込んでいた
( 十五年前の放課後
( 片想いの青年は
( 想いを寄せる女の下駄箱に
( ノートの切れ端に震える文字で書いた恋文を入れ
( 眠れない夜を過ごしていた
年を重ねるにつれて
生きることに少し疲れた僕は
遠い昔に追い求めた「愛」
という照れくさい言葉を記したノートは
モノクロームの教室の机の中に置いてきたまま
腐りかけたハートの大人になった
十五年前に着ていた学生服の内ポケットの中には
罅割れたハートが今も うっすらと点滅している
( 卒業式の日
( 雨の降る川沿いの道を
( 黄色い傘を揺らし消えてゆくあの女の後ろ姿
( 人気少ない教室の
( 無数の滴が伝う窓から見送っていた
薄暗い部屋には十五年間吊るされた学生服
首の上には
破れた恋に哀しく青ざめた青年の顔が
今も朧に現れる