壁に吊るされた学生服
服部 剛

日曜日の朝 
シャワーを浴び 
鏡の前で髪を整え 
ふすまを開け
薄暗い部屋を出ると 
何者かがそでを引っ張った 

振り返ると 
ハンガーに掛けられた 
高校時代の学生服の 
えりを留める爪が袖に喰い込んでいた 



( 十五年前の放課後
( 片想いの青年は
( 想いを寄せるひとの下駄箱に 
( ノートの切れ端に震える文字で書いた恋文を入れ 
( 眠れない夜を過ごしていた 



年を重ねるにつれて 
生きることに少し疲れた僕は 
遠い昔に追い求めた「愛」 
という照れくさい言葉を記したノートは 
モノクロームの教室の机の中に置いてきたまま 
腐りかけたハートの大人になった 

  十五年前に着ていた学生服の内ポケットの中には 
  ひび割れたハートが今も うっすらと点滅している 



( 卒業式の日
( 雨の降る川沿いの道を 
( 黄色い傘を揺らし消えてゆくあのひとの後ろ姿 
人気ひとけ少ない教室の
( 無数のしずくが伝う窓から見送っていた



  薄暗い部屋には十五年間吊るされた学生服 
  首の上には
  破れた恋に哀しく青ざめた青年の顔が 
  今もおぼろに現れる 








自由詩 壁に吊るされた学生服 Copyright 服部 剛 2006-04-25 01:00:14
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