それはまるで恋人同士のように
阿部



私たちの密やかな想いの始まりは
八月の明るい月の下
小さな灯りを頼りに
貴方の指にそっと触れ
少し汗ばんだ手と手を繋ぎ
それだけで胸は高鳴り
それだけで充分に潤い
そのままの格好で時間を忘れ
たまに笑い合い
空に月が消える頃には
サヨナラマタアシタ

誰にも知られることなく
また明日が来て月の下
ベンチに二人寄り添い
もしかしたらそれは年老いた夫婦が
縁側で肩を並べてお茶を啜っているような光景
他人から見れば私たちは
まるで恋人同士のよう

密やかな想いは続く
月の見えない暗い夜も
雨が降って冷え込む夜も
風が木々を揺らし
色付いた葉が舞い散る季節になっても
吐く息が白くなり
コートが冷えた体を包み始めても
サヨナラマタアシタ

近くて遠い私たちの距離
それはまるで遠距離恋愛をしている恋人同士のように
だけど
また明日は来るし
明日も会える遠距離恋愛
近くて遠くて冷たくて温かい
心だけが寄り添い
体は繋がることなく
季節だけが過ぎ
私たちの密やかな想いは
そのままの温度を保ち
明るい月の下
たまに笑い合い
誰にも知られることなく

 突然流した涙の理由は
 訊かないで下さい
 たまに笑い合ったときの
 私の笑顔だけを覚えていて下さい

月と夜だけが知っていた二人の
密やかな想いにサヨナラ
サヨナラ
サヨナラ
サヨナラ

何度も独りで呟いて
サヨナラサヨナラサヨナラサヨナラ
明日は昨日になり一昨日になり
どんどん遠くへ流れていく
誰にも知られることなく
それはまるで恋人同士のサヨナラのように
痛く切なく
 
 私の笑顔だけを覚えていて下さい






自由詩 それはまるで恋人同士のように Copyright 阿部 2006-04-22 17:03:39
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