菊の花
日和
花が好きだったばあちゃんに
花を摘んで帰ると
十日に九日は叱られる
「野に咲いとうのが美しかと」
だから摘んで来なさんなと
ばあちゃんの手のひらはまめだらけ
ばあちゃんは花たちを娘のように可愛がって
いつも
話をしながら水をやる
あんまり娘が多いものだから
話が長いものだから
いつの間にか如雨露でまめだらけの手
それでなくても皺だらけの手
花がすきだったばあちゃん
花がすきだったばあちゃん
いつしか
ばあちゃんの周りには菊の花が敷き詰められた
ねえばあちゃん
菊は好きだったっけ
ばあちゃんの庭に
菊はなかったはずだけど
ねえばあちゃん
菊は私 あまり好きじゃないよ
ばあちゃんのまめだらけの手は
みぞおちで固くにぎられて
まめなんか見えなかった
ただの皺だらけの手になっていた
もう怒る人はいないのに
いなくなってしまったのに
いまだに花が摘めない
『野に咲いとうのが美しかと』
皺々の顔をさらに皺くちゃにして笑った
ばあちゃんの眩しいほどの眼差しが思い出されて
来年は
菊の花を植えようか
ばあちゃんの
庭に