夜の翼
クリ


ご飯が炊き上がるほどの時間をかけて
僕はゆっくり目を開けていく。
ケサランパサランのように僕が飛んでいる世界
彼女の記憶の中では、僕は背景に過ぎないから
ここはきっと僕自身の思い出か、あるいは…。
そのうち、飛ぶことの不自然さがじんわりと
論理素子でスパークし始める。


崇高な不条理のフレーズがひとつずつ浮上
「見るまえに跳べ」
僕はそうしたのだ、彼女の朝に。
「飛べるようになるまえに落ちる術を学べ」
飛ぶまえに知らせて欲しかった。
「上がれば下がらねばならぬ」
オベリスクには確かにそう書かれてはいた。
でも、もはや手遅れ
僕は墜ちていく
僕のイカロスのロウが滴る
ジーンズに野球帽の彼女が僕を見上げている。


僕のメモリの中で彼女のコンプレックスが
意識を持っているかのように振る舞っている。
僕がいまだに「愛することをヤメラレナイ」と
そう思い込んでいるのは、アニマ=彼女の方なのか
その心は僕を憐れんでいるだろうか。
でも、もはや手遅れ
僕は墜ちていく
僕のモンゴルフィエのにかわが剥がれ跳ぶ
僕にはこの落下を表わすほどの時間もない。


高い城の向こうに遠近を無視して収束する
「楽しかった」昼の時刻のミネストローネ
それもすぐに僕の鍋から吹きこぼれる。
終わりの直前のフーガは変拍子
僕はそれに合わせて踊る心地よいステップを思いつく。
しかし手遅れ
僕のライトのリベットが弾け跳ぶ
僕はもはや加速せずに一定速度で墜ちる
彼女の仰角がだんだん下がってくる
落胆と区別がつかないほど。


彼女が凌駕する
僕の夜の思い出を支配する
地面に到着する直前に僕は見る
彼女が夜の翼を広げる。

Thanks to R.Silverberg, R.Bradbury, P.Simon and H.Kawai


                      Kuri, Kipple : 2001.02.25


自由詩 夜の翼 Copyright クリ 2004-02-10 02:36:31
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