努力家の吸血鬼
初代ドリンク嬢

吸血鬼は
何百年もの間
そうやって生きてきた

それが
普通だと思っていたから


でも
ある時その吸血鬼は
考えた

「このままでいいのかな、俺。
恋もできないし、健康的じゃない」

吸血鬼は体質改善を目指した

血液を飲むことを自分に禁じた
くじけそうな時は
テレビや雑誌で
憧れのデパートや遊園地をみて
夢を馳せた

「いつか
この遊園地やデパートで
手をつないで
ステキな彼女とデートをするんだ
コーヒーとかアイスクリームとか食べて」

最初は禁断症状に苦しんだ
血の代わりに
大量の生肉を食べた
生肉は鮮度が悪く
吐き気に悩まされた
そうして
また何十年も過ぎた

やっと
白いご飯とお味噌汁だけの食事で
満足できるようになった

見る見るやせ細る
肌のつや
髪のはりは
飛んでいった
「おじいさんみたいだ・・」

でも
吸血鬼は体質改善に
情熱を注いだ

また
何百年

血を欲することはなくなった
日光にもなれて来た

そして
とうとう昼の町へ出かけることができるようになった

やったね
吸血鬼
「これで、
これで
人間になれるかも」

自分で自分に名前をつけた
憧れていた名前
「太郎」

そして
「太郎」のデパートデビュー
彼女はまだいないけど
下見もかねて

「デパートでステキな彼女が見つかるかもしれない!」

憧れのエレベーター
憧れのデパ地下
憧れの化粧品売り場
憧れのブランドショップ

「太郎」は早速エレベーターへ
ドアが開くごとに
青白く
毛もなく
歯の抜けた
「太郎」の顔が
ひょこひょこ満面の笑みで現れる

みんな
気持ち悪いけど
知らん顔
係わりあいたくない

最上階
「太郎」は飛び降りた

「やったー、やったー」

「太郎」
一通りのフロアを回った後
噂のデパ地下へ
今日は期待でいっぱい
全国うまいもん駅弁フェア

「太郎」は富山のマス寿司を狙っていた
「太郎」はすし飯が好きだった

流れでる客に混じって
「太郎」もぴょんぴょんはねながらエレベータを降りた
きょろきょろマス寿司を探しながら
人の流れにのった

気付けば
人の流れが「太郎」を残すように退けた
「太郎」は
まだ跳ねている
うれしくて
跳ねて
うれしくて

周りを見ると
鉄柱が「太郎」を囲むように

「あれ?」
その時
マス寿司の看板が見えた

「太郎」の足はマス寿司に向かって跳ねていても
「太郎」自身は離れていく

「マス寿司」
最後に「太郎」はそうつぶやいた

「太郎」
どこに連れて行かれたのか


頑張った吸血鬼の話


自由詩 努力家の吸血鬼 Copyright 初代ドリンク嬢 2006-04-10 11:12:21
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