両目に潜む鬼
ユメアト

あたしは二月三日が嫌いなのだ

豆まきが恐い
豆まきと言うより鬼が恐い

鬼のお面があたしを見るのだ
鬼のお面に開いた二つの穴からあたしを見るのだ
二つの穴から覗く目は

母であるときもあれば
父であるときもあり
最近は弟も大きな目を小さな穴から覗かせる

あたしは絶対覗かない

あたしだけは一度も鬼の空っぽの目の裏側から
家族を見たりしていない

鬼のお面は被っちゃいけない

二つの穴から覗いては駄目

きっと
鬼に囚われる

そんなこと言えないから
あたしは毎年二月三日は
仲の良い家族の振りをして豆をまく

両手に掴んだ落花生が
指の間から墜落して

フロ−リングの床の上で
こん
と音を立てた

今年鬼のお面を被った弟も
彼に豆を投げつける二人の両親も

二つの穴から覗く目が
どんなに恐ろしいかに
気が付かない

あたしは毎年 豆まきをする

今年も する

鬼のお面から半分だけ覗く弟の目が
とても恐かった

あたしは豆まきが終わったら
お面を燃やしてしまおうと思って
ポケットのマッチを探す

落花生がポケットに入りこんで
マッチは行方をくらませた

あたしはしかたなく
弟の両目めがけて落花生を投げつけた


自由詩 両目に潜む鬼 Copyright ユメアト 2006-04-07 13:56:57
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