両目に潜む鬼
ユメアト
あたしは二月三日が嫌いなのだ
豆まきが恐い
豆まきと言うより鬼が恐い
鬼のお面があたしを見るのだ
鬼のお面に開いた二つの穴からあたしを見るのだ
二つの穴から覗く目は
母であるときもあれば
父であるときもあり
最近は弟も大きな目を小さな穴から覗かせる
あたしは絶対覗かない
あたしだけは一度も鬼の空っぽの目の裏側から
家族を見たりしていない
鬼のお面は被っちゃいけない
二つの穴から覗いては駄目
きっと
鬼に囚われる
そんなこと言えないから
あたしは毎年二月三日は
仲の良い家族の振りをして豆をまく
両手に掴んだ落花生が
指の間から墜落して
フロ−リングの床の上で
こん
と音を立てた
今年鬼のお面を被った弟も
彼に豆を投げつける二人の両親も
二つの穴から覗く目が
どんなに恐ろしいかに
気が付かない
あたしは毎年 豆まきをする
今年も する
鬼のお面から半分だけ覗く弟の目が
とても恐かった
あたしは豆まきが終わったら
お面を燃やしてしまおうと思って
ポケットのマッチを探す
落花生がポケットに入りこんで
マッチは行方をくらませた
あたしはしかたなく
弟の両目めがけて落花生を投げつけた