『ビショビショビショービジョビジョン』
大覚アキラ

「どうだいこれ、すごいだろう?」
 そう言ってスヌ夫が自慢げに取り出したのは、とても立派な双眼鏡だった。
「テストで100点取ったごほうびに、パパが買ってくれたのさ」
「わぁースゴイねえ! 見せて見せて!」と、のぴ太。
 しかし、横からジャーヤンが乱暴に双眼鏡をひったくり、早速窓の外を眺め始めた。
「おう! これスゲエじゃん!」
「あ、あのさ、丁寧に扱ってよね、まだ買ってもらったばっかなんだからさ……」スヌ夫は隣でハラハラしている。
「あーん! ぼくにも見せてよぉ!」
 のぴ太のことなど、ジャーヤンはまったくお構いなし。
 と、突然ジャーヤンが奇声を発した。
「うぉっ!? おおおおっ!!」
「なに? どうしたの? まさか壊れちゃったんじゃないよね?」
 スヌ夫は半泣きだ。
「馬鹿ヤロウ! 壊してねえよ!」
「じゃあなんなのさ……」
「コレ……見てみろよ」ニヤリと笑うジャーヤン。
 怪訝そうな顔つきで双眼鏡を覗くスヌ夫。
 と、スヌ夫も奇声を発した。
「うぉっ!? おおおおっ!!」
「なになになに? なにが見えるのさぁ?!」
「こ、これは……」
 スヌ夫は口を半開きにして、食い入るように双眼鏡を覗き込んでいる。
「どうだ、スゲエだろう? おれにももう一回見せろよ」
 そう言うとジャーヤンはスヌ夫の手から双眼鏡を奪った。
「ねぇ、いったい何が見えるのか教えてよ!」
「知りたいか、のぴ太?」
 地団太を踏むのぴ太に、興奮冷めやらぬスヌ夫が言った。
「あのな、向こうの方のマンションに、シャワーを浴びてビショビショになった美女が微笑を浮かべているのが見えるんだよ!」
「えええええっ?!?!?! そそそそそ、それって、もしかして、ハ、ハ、ハ、ハ、ハダカなの?!?!」
「当たり前じゃんか!!」
「うそっ?! ぼくにも見せてハダカハダカハダカ!!!」
「のぴ太には見せてやんないよ」
「えー! そんなイジワル言わないでよスヌ夫〜!」
「ダメダメ! のぴ太には見せないよ!」
 意地悪い笑みを浮かべるスヌ夫。と、そんなスヌ夫を小突きながら、ジャーヤンが鼻息荒く言う。
「おい……ティッシュ持って来いや……」

 結局、双眼鏡を貸してもらえないまま家路に着いたのぴ太。例によって例のごとく、ドうえもんに泣きついてみた。
「ねぇねぇドうえも〜ん、双眼鏡とか、そういう感じの道具、持ってないかな?」
「ん? 双眼鏡? あるけど、なにに使うの?」
「実は……」
 のぴ太は、スヌ夫の家での出来事を語った。
「なぁんだ、そんなことならちょうどいい道具があるよ」
「えっ!? マジ?!」のぴ太の顔がパッと輝く。
「要するに、ビショビショで微笑している美女が見たいんだろ?」
「うん……まぁ、簡単に言うと、そうだね」
「わかった、まかしとけ。えーっと……あ、これこれ、『ビショビショビショービジョビジョン』〜!!」
 ドうえもんのポケットから取り出されたそれは、コンニャクでできた水中メガネのようなものだった。
「これをかけてごらん」
 ドうえもんに手渡された装置を掛けるのぴ太。
「……な、なんかベタベタしてて生臭いよ」
「気にしない、気にしない。で、ここのスイッチを入れて、ダイヤルを……そうだな、半径100キロでいいか」
 と、突然のぴ太が奇声を発した。
「うぉっ!? おおおおっ!!」
「ふふふ……どうだい、スゴイだろう?」
「うんっ! スゴイスゴイ!」
「ここから半径100キロ以内にいる、ビショビショで微笑している美女を自動的にサーチして映し出す機械なんだ」
「スゴイスゴイ!!」鼻息荒いのぴ太。
「スゴイだろう!」
「……ドうえもん、ティッシュ持って来てくんないかな」


散文(批評随筆小説等) 『ビショビショビショービジョビジョン』 Copyright 大覚アキラ 2006-03-30 03:34:54
notebook Home