水栽培
塔野夏子

この日頃
心に映ったいくつかの言葉たちが
モビールになって
中空に
揺れる

長椅子あたりに
たたずむのは
けれどもう溶けて消えかかっている
誰かの
不在の
かたち

陽射しが
半透明にふちどる
窓のそばには
ヒアシンスと
クロッカス

その向こうには
うすあおくやわらかな 空

そっと
指をのばしてみる

ひとひら ふたひら
時折翳りも舞い込むけれど

忘却という優しさが
ふいにひどく哀しかったりするけれど

何処からか
流れてくる
ゆるやかなピアノの音色が
モビールと
戯れはじめて

指をのばしたまま
ひととき
目を閉じてみる

瞼のうらにうつるのは
花の
かたち





自由詩 水栽培 Copyright 塔野夏子 2006-03-25 18:49:44
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春のオブジェ