極楽の花
渦巻二三五


わたし、どこやらに極楽があるとおもう
春の山道で
垂れ下がって咲いている藤の花と
それを咲かせている木が
じぶんの花も
たっぷりと咲かせているのを見ると

山藤はがむしゃらに這いのぼる
きりきりとしがみつく
その必死のちからののちに咲く花は
天をもとめる野望の花ではなく
あんなにもやすらかに垂れて咲く

そうしておなじ春
おなじ枝に
あたらしい
白い花が咲いている
しめつけられる苦悶の花ではなく
ふわふわとやわらかにさざめく

幹を這いのぼる蔓が
太く強くなり
巻きつかれしめつけられ
くい込む蔓に
ゆるやかに殺されながら
殺され疲れながら
ひとつになって

しがみつかれるのもまた
極楽への道であり
しがみついた果て
共倒れに倒れても
あかるい山の上の――
――この向こうはもう崖だから
なにも陽をさえぎらない

山藤の花房はやすらかに下がり
白い花笑う
極楽で笑う
ああ、なんてあたたかい
春のひなた


自由詩 極楽の花 Copyright 渦巻二三五 2003-04-10 11:34:42
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