固有名詞と反復のスピード/マスイジュウ氏の詩について
渡邉建志

固有名詞と反復のスピードについて


用務員の話http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=23400 全文

紹興酒どうしようもない日記をつけてガーナ行きというかトンデミーナを詮索および検索のトンガ人が短冊に書くマジックワードセルライト完全燃焼宣言イン西アジア警報発令直ちに避難勧告が韓国から観測纏足中国だそれは勘違い段違いの行く末見守るけったいな料理出されて硬直当直の管理人はカップ麺ばかりブラウン管凝視目に映る森三中の村上が守り神コンプリートディフェンス鉄壁の守り潔癖症吊り革に吹くぞファブリーズ文京区の対抗試合において自分はコールドまるでストーンコールド氷山の一角刺すように来るぞ南極のブリーズ28歳白ブリーフしかもちょっとでっかくて身体検査失格しっかし叱り叱り叱りつけても変わらないこともしかりスタイルだと返答されて昏倒ジキニンで時機に直したい時季止まらない咳も止まらない乞食について分析した300ページに渡る流浪の旅古事記タイムスリップ兆候一人の中にもう一人がいて引きずり込む大江戸温泉物語の周辺はカップルでいっぱいだったので愕然当然右も左も空いてる自分は時期尚早引き返そう逃げ出そう普段の生活今まさに連絡中のアル中おな中人生考え中三葉虫の講義抗議広義の田口先生が言うことは無視に限る見限るダメ退治まるで伊藤カイジそこまでして金を得たいか得たいオレは何やっても金を得たいいい女と寝たいナ・オ・ンは吉原あたりでナウオンセールだし今はとにかく金が欲しい(談)



ヒップホップにはフリースタイルてのがあって、詩には即興詩てのがあって、並べてみると圧倒的にフリースタイルのほうが面白いよね、というのがSSWS等いわゆるすぽーくんわーず(ううう。。。)系イベントでの正直な感想である。フリースタイルにおいては時間やリズムとの戦いの中で言葉を選択していくという緊張を我々も読み手も共有することになるが、即興詩においてはそれが感じれなく、ただお話を聞かされているのと変わらないと感じることが多い。

次の言葉を選択していくとき、我々の笑いを誘うのは何といっても(意外性をもって現われてくる)固有名詞である。意外性というのは論理的(縦方向)でないことで、むしろ音的な連想(横方向)であることだ。で、ヒップホップにおいてはたいてい韻という関係性のなかで、論理的関係性の無いものが併記されることになり、その意外性が我々の笑いを誘う。

これも一種のヒップホップフリースタイルとして読んでいいんだろう、と勝手に思う。論理のくもの巣から逃れられない私はどうしてもこの詩を解剖して見たかったのである。解剖したところで私にはできないことはわかりきっているのだけれど。文と文をどういう理屈でつなげていくかと言うことについて、きちんと追ってみたい。こういうものは考えすぎると余計かけなくなるものなんだろうけれど、所詮私にはできない芸当だと諦めているので、鑑賞するぐらいはいいであろう。以下、/が意味セクター(ちょっと変だけど我慢してください。文とでも読み替えてください)の切れ目、そのあとの()がセクター同士を繋げるフォース。っていうかつなげている関係性の種類というか。基本的に(韻)つながりがおおい。/のあと以外にも、セクター内での押韻についても(韻)と表記。


紹興酒/(?)どうしようもない日記をつけてガーナ行き/(韻)というかトンデミーナ(韻)を詮索/(韻)および検索(韻)のトンガ人(韻)が短冊(韻)に書くマジックワードセルライト/(セルライト→燃焼のS+V?)完全燃焼宣言イン西アジア/(燃焼→警告、避難勧告の連想?)警報発令直ちに避難勧告が韓国(韻)から観測(韻)/(韻)纏足中国だそれは勘違い/(韻)段違いの行く末見守る/(?)けったいな料理出されて硬直/(韻)当直の管理人はカップ麺ばかりブラウン管(韻)凝視/(順接)目に映る森三中の村上が守り神/(同義)コンプリートディフェンス/(同義)鉄壁の守り/(韻)潔癖症吊り革に吹くぞファブリーズ/(森山中の村上VS自分の試合?)文京区の対抗試合において自分はコールド/(韻)まるでストーンコールド/(意味的連想)氷山の一角刺すように来るぞ南極のブリーズ/(韻)28歳白ブリーフしかもちょっとでっかくて身体検査失格/(韻)しっかし叱り叱り叱りつけても変わらないこともしかりスタイルだと返答されて昏倒(韻)/(昏倒→ジキニン 気付け薬?風邪薬のはずだが)ジキニンで時機(韻)に直したい時季(韻)/(ジキニン→咳 論理的接続)止まらない咳も止まらない/(?)乞食について分析した/(?)300ページに渡る流浪の旅/(韻)古事記/(連想)タイムスリップ/(?)兆候/(古事記→温泉物語?)一人の中にもう一人がいて引きずり込む大江戸温泉物語の周辺はカップルでいっぱいだったので愕然/(韻、意味的結合あり)当然右も左も空いてる自分は時期尚早引き返そう(韻)逃げ出そう(韻)/(?)普段の生活今まさに連絡中のアル中(韻)おな中(韻)人生考え中(韻)/(韻)三葉虫の講義抗議(韻)広義(韻)の田口先生が言うことは無視(虫と掛けているか)に限る/(韻)見限る/(同義)ダメ/(同義?)退治/(韻)まるで伊藤カイジ/(意味的結合)そこまでして金を得たいか/(意味的結合)得たい/(意味的結合)オレは何やっても金を得たい/(意味的結合)いい女と寝たい/(意味的結合)ナ・オ・ンは吉原あたりでナウオンセール(韻)だし今はとにかく金が欲しい(談)


やってみて気付いたこと
0.順接等、論理的な結合が非常に少ない(あとの3.と同じことを言っているのかも
1.セルライト等、前後とはあんまり関係もなさそうな固有名詞も出てくる
  田口先生とか紹興酒とか
2.基本的にひとつひとつのセクターは体言止めが多い
  スピード感がでてくる
3.論理的・意味的にはインターセクター的に引きずらない(セクターが変われば論理的・意味的にはぜんぜんぶっ飛んでしまう、違う話題になる)
  基本的にはそのようにどんどん飛ばしていって、肝心なところでががっと論理的なカタマリをぶつけていく(最後の女と金が欲しいというところ)。普段細切れなので、最後に論理的につながってくると迫力が出てくる。

この詩の一番すきなのは最後勢いをあげていって、(談)というオチがあるところです。

で、こっそりベンズカフェに行って本人が朗読されるのを聞いてきたのですが、えらい速いスピードで読まれてました。なんだか韻とかより、スピード命って感じでした。意外。あんまり早くてみんなあんまり笑えるところで笑えてなかった感じ。てか笑えると思ってるのは私だけなのか?!これとか、水かけ論http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=35577とか読まれたのですが、これは受けてました。よかた。水かけ論は、どうやってこの詩ができていったかが、こう、一目でわかるのがたまりません。題名がすばらしいですね。


甘栗むいちゃいましたhttp://po-m.com/forum/showdoc.php?did=38221

今 春が来て 君はきれいに甘栗むいちゃいました


たまりません。この一行でぶっ倒れるわけですが、たぶん作者はまずこれを思いついたのではないかとたとえば予想するわけです。で、それを形にするときにどうやって作っていくか、どうやってこの一行へ盛り上げていくかを考えたときに、力尽きるひとと力尽きずにやってしまえる人がいると思うんですね。で、力尽きる人はたぶんがんばっても力尽きるし、力尽きない人はどうやってもできてしまうんじゃないか。いやむしろ人ではなくときなのかもしれない。できるときゃできる、できないときゃできない。僕はいま、「Tシャツを冷蔵庫に入れる」という題名で詩を書きたいのですが、題名だけで内容が浮かんできません。こういうのを力尽きる人といいます。そもそもの発想がおもしろくないとか言うな。


デブ爆走 冒頭 http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=18422

秋葉原の中央通りをデブ爆走!
秋葉原の中央通りをデブ爆走!
肩には一眼レフ!
首が伸びたTシャツ!
胸には何かのでかいロゴ!
アイツはスイカップ!
やたらパンパンのバッグ!
そして手には一枚の紙!



この作品は本当にすごいです。スピード感の極限って感じがします。なにしろ全部体言止めプラスびっくりマークである。実況中継感がでているんだろうな。引き込まれる冒頭です。映像がいやでもめにとびこんできますね。次々と。汗とか飛んできそうです。

マスイジュウは考えた
コレはきっと何かオタッぽいイベントの入場整理券だと
走る走る走る走る!
恥じることなく走る走る走る!
これがデブの走りかと見紛うほどに
走る走る走る!速い速い速い!



ここがものすごいと思うんです。考えた/Aだと という形がこんなに生き生きとしてくるものなんだと。これも、スピードがあるからだろうと思うわけです。そのスピードで走る走る走る走る!と。引用最終行、こんなにスピード感にあふれる文章はそんなにないのではないかしら。走る走る走る!3回という回数は繰り返しのリズムが一番生かされる回数ではないかと思う。そのあとの速い速い速い!は国宝級ですね。現代詩フォーラムだからフォーラム宝か。ぜひ祭り上げたい。「走る走る走る!速い速い速い!」です。3回繰り返しを繰り返すのに、しつこくはなく、余計スピードアップするすごさ。


散文(批評随筆小説等) 固有名詞と反復のスピード/マスイジュウ氏の詩について Copyright 渡邉建志 2006-03-20 00:18:37
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