元年
霜天

また、君を待っていたいから
静かに爪を切るたびに
振り分けられる私を想う
君が生まれる
空をもう一度構築したい、から
また少しの嘘を零した
細分化された過去が、崩れて
いくつかの今に私がいる


元年
繰越しの日付に
父や母から零れていったものが
もう戻れない漣をここに残した
融解していく
穏やかに溶け合っていく
ふたりが恋人、だった姿が
私の言葉では絵にならない
遡りながら写真は
どこまでも父と母だった
ふたりはなぞる指先から
また少し、溶けた気がする

崩れそうな岸辺から
海に帰りそうな夢を見ている
また、君に逢いたいから
並び替えた順路の
道幅を
両手を広げた私の世界よりも
少しだけ、広くした


まだ私は、めぐり逢えない
穏やかな波の声と
君をただ、待っていたい
継ぎ接ぎの床の隣から
また、私が零れていくから
受け止めてくれる手のひらの
君にまた、逢いたい




崩れていく過去の爪先が
いくつかの今日で、歩幅を間違える
途切れていく
花の、色
また何枚かの空が生まれた、のは
あの人が溶けた空白の余韻だ
この日も
履き違えた呼吸の向こうで
君たちがまた始まっていく


自由詩 元年 Copyright 霜天 2006-03-13 00:50:29
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