もし君がババアになったら
たもつ

「私がおばさんになっても」と森高は歌った
ついこの間のことのようだけど
もう十二年も前の話だ
その年に僕らは結婚した
つまり、僕らが結婚して既に十二年たった
ということだ

僕は一度、交通事故で死にかけたことがある
娘が生まれて間もないころだった
救急隊員の通報を受けた君は何も知らないまま
僕の交通事故現場の前をタクシーで通りかかり
ああ、こんな事故じゃ誰か死んでるんだろうな
と思ったそうだね
他人事のように

そう、他人事のように生きてきて
多分、本当は違うのだろうけど
他人事のように僕らは
今ではすっかり
大層ご立派なオジサンとオバサンになった
これからもきっと他人事のように
ジジイとババアになっていくんだろう
どこが境目かわからぬまま
ある日ふと突然に


もし僕がジジイになったら
君はババアだ
もし君がババアになったら



「もし君がババアになったら」


もし君がババアになったら
名前をつけることにしよう


ヒマワリ
アップルパイ
冷たいオクラのスープ
国境を越えられない靴
気まぐれなテントウムシ
表彰台に繋がれた犬
九九を忘れてしまった数学者
ソフィア・ローレン
よしながさゆり
ジブラルタル


ジジイの僕が愛する
皺のひとつひとつに



自由詩 もし君がババアになったら Copyright たもつ 2006-03-12 07:07:44
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