うさぎとの思い出
夕凪ここあ

今朝から元気な
うさぎは雪で出来ていた
おはようと声をかければ
おはようと返してくるし
動けはしないものの
今日も元気でいられることは
いいことだ。

うさぎは冷凍庫で冷やしてやると
かわいらしくころころと笑う
気持ち良いらしい
夜、陽が沈んでから窓際に出してやると
ひとりぼっちで寂しかった、と
鳴きそうな声を出す
頼むから泣くな、溶けるから。

おまえは雪だ、
と教えてないからこいつは知らない
春が近づいてきたある日から
ぐったりし始めたうさぎは
もう冷凍庫から出られなくなった。

何日かが過ぎた頃
おやすみなさい、
なんておまえが弱々しい声を出すから
窓際に連れて行ってやった
ひとりは寂しいといつか言っていたから。
最後の夜のこと。

朝、おまえの姿はなくなっていた
窓際には溶けてしまった雪の跡があった
うさぎが流した涙だったかも知れない
空へと還るとき
この陽の眩しさが見れただろうか
あったかい。

うさぎは最後まで
自分が雪だと知ることはなく。

来年になったらまた会えるように
冷凍庫は空けておこう。


自由詩 うさぎとの思い出 Copyright 夕凪ここあ 2006-03-11 18:04:48
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