軌跡
アンテ


ひと抱えはある
まん丸いかたまりを
ゆっくりと押して転がしながら進みつづけた
すれ違う人たちは
かたまりをしげしげと眺めたり
大きさを測ったりした
中には耳をあてて音を聞く人もいた
こんこん
中から音が響くたび
こんこん
かたまりの表面を叩いて応えて
また歩き出した
通りはひどいでこぼこ道で
かたまりを傷つけないよう
慎重に慎重に進んだが
ついにある時
うっかり道ばたの岩にぶつけてしまった
かたまりはあっけなく割れて
どろどろしたものが流れ出して
黒々と土に染みこんだ
殻を砕いてその上に蒔くと
芽が出てたちまち立派な樹に成長し
枝にはたわわに実が生った
通りがかった人たちに実を配って
一列にすわって頬ばりながら
とりとめもなく話をしていると
気持ちがよくなって
手足を折りたたんで小さく丸まった
通りにそって
遠いかなたまで
立派な樹が点々と立っていた
目を閉じると
胸が温かくなって
それはゆっくりと全身に広がった
風邪ひくよ
だれかに肩を叩かれたり
揺すられたりしているうちに
ますます感覚が遠のいて
しょうがないなあ
だれかが観念したように言った
身体が軽くなって
ゆっくりと転がりだした



自由詩 軌跡 Copyright アンテ 2004-02-03 23:03:52
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