声(草と火)
木立 悟




声は告げる
「風が少し強くなったような気がします」

問う前に答える
「岩と岩の間を行きましょう
枝で隠された路を」

独り言のようにつぶやく
「昔は水のにおいがしたものです
こんな午後にはいつも」

離れては近づく
「池のまわりの沈んだ木々が
光になろうとしています」

あらゆる方向から
降るようにささやく
「あそこに雨が見えてきました
会いに行きましょう」

声は続ける
「花や葉を聴くことが
恐ろしくてたまらないという人もいるのでしょうね」

首に沿って泳ぎながら続ける
「すべての風景が消えてしまったとしても
見ることをやめないでください
目が潰れても
語りかけるものがいなくなったとしても
見ることをやめないでください」

声は触れる
「もうすぐ土のための雪が訪れます」

声は幾度も触れる
「二つしかなかった季節が
三つになろうとしています
水たまりの上に立つ
霧のような光の円柱から
新しいけものが生まれるのです」

声は告げる
「あなたのけものです」










自由詩 声(草と火) Copyright 木立 悟 2006-03-01 06:34:50
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