向こうの商店街
美味

トイレの向こうは僕の知らない世界でした


というより知らない商店街だった
肉屋を始め、魚屋、八百屋と
食べ物を扱う店ばかりが目立ったが
中には薬屋や酒屋もあるようだった
店はどこも活気に溢れ
不景気も何のそのといった感じだ

ここは何処ですか、
と近くを歩いていたおばさんに声をかけると
おばさんは僕の姿を見るや否や
有名人に会ったかのように歓喜の声を上げた
そして、その声を聞いた周りの人たちまでもが
ざわざわと集まり始めた

何故だか知らないが
皆は僕のことを知っているらしい
しかも、最近の食生活の乱れや
ついこの間、風邪を引いていたことも知っていたのだ

ここは何処ですか、
と再び聞くと
ここはトイレだ、決まってるじゃないか
と訝しい目で見られた

あぁ、そうか、トイレだ、
僕は閃いた

商店街を良く見れば
八百屋に並ぶ商品は少なく、肉屋は多かった
ということは、酒屋も多いに違いない
薬屋はこの間入荷があった程度なんだろう

自分の行為がこんなに多くの人たちの生活を担っていた
確かに毎日同じようなものを食べていたら
誰でも嫌になるに決まっている

これからは食生活に気をつけ
具沢山でバランス良く食べなければならない

僕は商店街の皆の期待を背に
トイレを後にした

用を済ませていないのに気付いたのは
夕飯を食べ始めた直後だった


自由詩 向こうの商店街 Copyright 美味 2006-02-28 22:34:10
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