butterfly
本木はじめ
如月や黒いソファーに横たわるあなたの影も微笑んでいる
ゆく船のゆくえわからぬまま岸でぼくらが録音されていた夏
ケイタイを缶コーヒーのように振るきみはまだまだ宇宙に鳴れる
輪の途中つかめばさわぐ胎児たちはじまることを拒み続けて
髪型がいつもと違うきみの名を問えば無数の孔雀の怠惰
酔ったきみ思い出しつつ笑うコインランドリーから帰る早朝
円陣の外で少女が放つ蝶あるいは古き聖書の栞
コンタクトレンズ落下すきらきらときみが指差す空を見た冬
僕たちの詩性はすでに痙攣し停滞しているだろう三日月
失ったものに「再度」を禁止して乾いた木々を優しく手折る
くろぐろと蛇はあなたの手をはなれ赤や緑を吐き出している
新聞紙だらけの海で記者たちはあらゆる花の名前を忘れ
穏やかな午後に巨大なアンプ在りひとつの音がひろえないまま
散らかった部屋は片付けられるだろうあなたの旅はおわらないまま
ジェティ、ゆえ、きみのまぼろしあきらかに忘れ去られた楽譜のように
駆け抜ける馬のまえ足うしろ足いずれ踏まれる花が咲く午後
ロンギヌス、おまえの槍でもう一度、象形文字のような邂逅
きみを待つ真冬の墓地でしろいしろいしろい仔猫を吐き出しながら
劣化したビデオデッキを積み上げてあの日あなたと見た海の向こう
矢に撃たれ狩人さんは死にました森の出口に落ちていたメモ
月光の三楽章を弾くときのあなたの指のルビーの軌跡
窓を開けながらあくびをしてる日曜日あなたの美しい喉
電話越しのあなたの声はルノワール、クリムト、ゴッホ、ロダンのみどり
スクラップブック片手に図書館へ鋏をチョキチョキさせてるきみと
くれないの火花ひばりのごとく帰依すべてをすてててのひらだけの
忘れようあなたのことを永遠に出会いつづけるあの日の場所を
くちびるが剥がれる煙草ひきはなす冬の真夜中咲いた薔薇の名
三月へ向かう電車へ乗り込んだきみを見送る二月のきみと