シャウト! (完全版)
ベンジャミン
泣けるくらいの悲しみならば
それは言葉にならなくていい
シャウト!
吹き溜まりの街角で、自転車に乗ったおじさんが
何を言ってるのかわからないでいる
イカレテル
そんな冷静な判断で、本当は誰もが心に抱えている
それが自分では理解できないことに
シャウト!
ふたをしたままで、言葉にならないものを
言葉にならないまま表現したい僕は
イカレテル
何処をどうさまよってきたのか、僕はいつのまにかここにいました。暗くて寒くて、もう死んでしまうのかもしれないと思いました。伸びてくる爪に怯えて、抜け落ちる髪の毛にも一つ一つサヨナラを言っていた毎日。
「ここは何処?」
「ここは僕です」
「わたしは誰?」
「誰かが僕です」
泣けるくらいの悲しみならば
それは言葉にならなくていい
シャウト!
現実から遠ざかるほど
真実は重くのしかかってきて
逃げ出したくなるすべてのものから
イカレテル
街角で会ったおじさん
やっぱり何を言ってるのかわからない
指さして笑う
僕といったいどこが違うっていうんだ
シャウト!
大きな声を出すほどの気力があるのなら、それはもう言葉である必要もないのかもしれません。声帯を震わせるのは物理的な効果によるものだけど、きっとこの身体を動かすものは、もっと別のものだと思ったときから
「ここは何処?」
「何処でもない」
「わたしは誰?」
「誰でもないよ」
泣けるくらいの悲しみならば
それは言葉にならなくていい
シャウト!
それはもしかしたら
泣くよりも悲しいことで
泣くよりも痛いことだろう
イカレテル
指さして笑ってる
みんなといったいどこが違うっていうんだ
泣き言、戯れ言、どうでもいいこと
同じように抱えてる僕は
シャウト!
シャウト!
シャウト!
シャウト!
シャウト!
ただこうやって書きなぐってる
シャウト!(力強く)
泣けるくらいの悲しみならば
それは言葉にならなくていい
シャウト!(もっと力強く)
悲しみが大きくなるほど
その叫び声は外に聞こえない
「ある朝、目が覚めたら一緒に寝ていた僕の猫が固くなっていました。まだ温かいのに、呼吸を何処かに忘れてしまったのです。僕はもう一生懸命に、泣くことも忘れて心臓のあたりを何度も押したのですが、瞳はすっかり乾いてしまってそれ以来、僕はその猫の名前を思い出せません」
シャウト!(張り裂けそうなくらいで)
泣けるくらいの悲しみならば
言葉のように伝わらなくていい
シャウト!(裏返るくらいの激しさで)
悲しみを等しく置き換えるとき
僕は押し黙ったまま動けなくなる
「ある日、仕事場で倒れた僕は救急車で声を聞きました。僕のことです。呼び掛けているようでしたが返事ができません。バイタルがどーのこーのと言っています。僕の脈が計れなくて困っているようでしたが、僕は助ける方ではなく、僕は助けられる方でした。
(僕は死ぬのでしょうか?僕は死んでしまうのでしょうか?あの日の猫のように固くなって、いくら心臓を外側から押しても届かなかったじゃないですか!届かなかったじゃないですか!)
だから僕は神様を信じません。」
シャウト!(言葉なのかわからないくらいで)
シャウト!(何かが喉に詰まったみたいに)
シャウト!(かすれたただの物音のように)
シャウト!(声ではなく)
(シャウト!)
泣けるくらいの悲しみならば
それは言葉にならなくていい
泣けるくらいの悲しみなんて
誰かに伝えなくてもいい
泣けるくらいの悲しみならば
ただ一筋の涙に変えて
きれいに忘れてしまえばいい
泣けるくらいの悲しみは
消えることはないけれど