並木道に
誰かの日傘が忘れられているのを見つけ
持ち主の名前がなかったので
失敬することにした
けれど自転車のかごに引っ掛けて
ペダルをこぎだしたそばから
日傘は陽を浴びて匂いたち
匂いたってはまた陽を欲しがるので
これは私の日陰のアパートに置いておくわけにはいかないと
急いで戻って元の場所に広げておき
すまなかったね、と謝っておずおず帰った
何週間か経って
また並木道を通ったら
日傘はちゃんとそこにあって
あの時よりもいっそう色鮮やかに広がっていた
顔なじみになれたので
時々下で休ませてもらったりする
日傘は少し嬉しそうにほねぐみを揺らして
私の顔にやわらかい光を漏らして遊ぶ
( 2003.05.26 )