世界で一番バランスのとれてない人
腰抜け若鶏

彼はとびきりひねくれ者
いつも皮肉ばっか口にしてる
それでも誰かの前では言えないんだ
反撃されるのが怖いから

やられたらやりかえす事もできない
芸術的な言い訳で自分を慰めれるから
そんな必要はないんだと本人は得意顔

人をびっくりさせるのが好き
誰かの目をキラキラ輝かせるのが何より楽しい
だからおもしろい冗談や素敵な物語を
いつもいつも頭の中で考えてる

でも人が嫌いなんだ
みんな自分勝手だし我儘だし
何より自分が一番だと思っているから

特に大人が嫌いだ
自分とちょっとでも違う奴を見つけると
寄ってたかってみんなで叩くから
なんでお前だけって
そんなの惨めなだけなのに
大人なのに美学がなすぎる

そして自分が嫌いなんだ
器も中身もいまいちイケてない
本人はそんなことないと思ってるんだけど
みんなが口を揃えてあいつは最低だと言い続けたから
朝も昼も夜も、いつもいつも

彼は自分を好いてくれる人が怖い
いつ自分に愛想を尽かして去っていくか分からないから
ついうっかりマズイ事を一言でも口にしたら
怒って一生自分を軽蔑し続けるのだろうと信じているから

だから彼は一人でいるのが好きだ
誰にも邪魔されないし酷い事も言われない
失望される事もないし嫌われる事もない
でもそれだと退屈なんだ
だって彼は人を喜ばせる事が大好きだから

そんな彼には辛い過去があるんだよ
強く強く望んだ事、その全部がことごとく裏切られたんだ
願いも救いも夢も希望もすべてが

だから自分が呪われてると信じてる
自分が予想した未来は絶対に実現しないと
彼はいつも最低の未来を頭に浮かべる
そうすれば少なくとも最低の結果にはならないから

笑い声を聞くと自分が馬鹿にされてるんじゃないかと感じる
ちょっとでもそっけない態度をされると嫌われてると感じる
だから彼は人前で他人の悪口は絶対言わない
それに好きな相手にははっきり分かるように目一杯の好意を示す

けれどもそれをやってるのは自分だけで
みんなはそれを真似ようともしてくれない
だから余計に彼は人が嫌いになる

パソコンは実にいい
特にインターネットは素晴らしい
こっちからは覗き込めるけれど向こうからは無理だ
一方的に話し続ける事だってできる

彼の事を気に食わない人は素通りして行ってくれる
たくさん人がいるからわざわざ彼だけにちょっかいを出す必要がない
彼の話をおもしろいと思ってくれた人だけを招待できる

つまらない野次なんて聞きたくもない
野次を飛ばす連中はただの感情任せで何も考えちゃいない
聞くだけ無駄だから彼はいつも耳を塞ぐ
インターネットはそれが簡単にできるから好きだ

その代わり自分のためを思って言ってくれてる忠告なら素直に聞く
野次と忠告の違いは一目見ただけで分かる
同じ言葉でもその温かさに天と地ほど差があるからだ

それに話を聞いて笑ってくれる子にはとびきり優しくする
嫌われたくないというのももちろんあるけれど
それ以上に彼は本当は人が大好きなんだ
彼を好きになってくれる人なら誰でも彼は好きになる

いつか自分のお城を建てたい
そこで好きな人だけを招待していつまでも幸せに暮らすのだ
想像したからもうこんな未来は実現しない
そう思って彼はため息をついた
だからまた新しい素敵な夢を探さなければいけなかった


自由詩 世界で一番バランスのとれてない人 Copyright 腰抜け若鶏 2006-02-18 11:44:02
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