一月のバラッド
狸亭


無罪放免まであと二十六ヶ月かと指を折って
なにやらしれぬなまぬるい監獄暮しの
ご同様のひとびとにまぎれこんで日がすぎて
それでも親子六人がいわうお正月の初物
にぎやかに酒をのんだり餅をくったりの
三が日がすぎるとひとりまたひとりと
それぞれの背中をのこしてきえてゆく冬野
さむい風がはしりぬけるアスファルト

あとはいつもの時間がつまらなくながれて
世間の出来事もなぜだかみんないい気なもの
生きていることに真面目になれなくて
これではいけないと青春十八切符鈍行列車の
ひとり旅前橋駅に降り立つとそこは赤城の裾野
モダンによそおった広瀬川のゆたかな水の音
名物のからっ風もなく小春日和のアンデンティーノ
「水と緑の詩のまち」前橋文学館はなかなかのもの

「ふるさとは」やっぱりとってもいいものでして
「風に吹かるる」とおい日のずっとむこうの
「わらべ唄」がイヤリングをはずした耳にきこえまして
「今朝の秋」はまたかくべつの思いを元総社村の
「ふるさとに似たる」こころの奥のあやしい色の
「風そ吹く」伊藤信吉さん九十年のハイライト
上州の風の色の中ですぎた四時間だけの果報者
ぼくにはふるさとがない窓のむこうの闇をみつめる帰途

酔っていなけりゃやってられないから吹雪の網代の
防波堤でふるえながら釣糸をたれると
魚なんぞはつれなくて猫に笑われ道化者
温泉につかり宴会酒でふとってる似非アナキスト



自由詩 一月のバラッド Copyright 狸亭 2004-02-01 09:57:30
notebook Home 戻る  過去 未来