ストローク
霜天

絡まり合った人たちの影も
それはそれで綺麗だった
東京
そこから抜け出すと
混雑していた日付が
見慣れない文字に変わっていく
月が、取り残されている
南へ向かう電車に深く沈み込めば
暖かい空気にまた、誰かが泣いている気がする
その肩に置ける手を
生憎、今は持ち合わせていない


息継ぎが上手く出来ない
昔からの悪い癖はどこへ行っても
送電線の隙間を越えて
染み出すように広がっていく
ビルとビルの隙間に行き詰る
継ぎ接ぎだらけの街路と
眠れない夜に出会ったスコール
広い道にも慣れたはずなのに


繰り返しで雨が降る
往復運動の爪先で痛さを忘れてる
東京へ侵入してから少しずつ
声が綺麗になっている
気がする
結局、順応しているのかもしれない
直線と直角、縁取りされた空に
月は白かった
そこだけは何も変わらない
少し高くなった声でつぶやいた


しなくてもいい約束でこの街は一日ごとに高くなる
君を苛めてしまった昨日までにも、どこかに意味があるはずで
今は、わからない
それでいいんだと思える
往復される腕と腕
泳ぐように
またそこに戻っていく
東京、霧に浮かんで
いつだって気付かないまま、美しかった




繰り返して
「見えなかったけれど、線は繋げているんだ」
と、零し続けている
指先と指先とが出会うまでの
その自然な速度
少し寒くなった電車に揺られて
また、いつもに戻っていく
ただいま、と繰り返して
そこでも僕らは僕らです


自由詩 ストローク Copyright 霜天 2006-02-15 00:23:36
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