欲のありて思ふこと
竜一郎

(手段より)
ある法師は戒律が欲しかった
ある学者は定律が欲しかった
ある農夫は鍬と鋤とが欲しかった
ある法螺吹きは真実が欲しかった
ある乞食は一寸の金が欲しかった

欲ありて思うことがある
どこまでゆけば止むのか、と

ある者はこう云った
「それを人は向上心と呼ぶものだ。
 それが尽きたとき、ひとは怠惰に蝕まれるだろう」

ある者はこう考えた
「でも、それは欲に違えねぇ。
綺麗ごと言ったってだめさ。
似非モラリストの誕生だ!」

ある鳥はその二人を見て思った
「あの二人は空を知らない。
 この青さを信じない。
 議論が真理を生むのなら
 今まで千は生まれてる。
 争い好きのお坊ちゃまたち。
 信じることよ、
〈存在〉を信じることよ」

それらを見ていた雲が感じた
「南無妙法是空。 
巡るはすべて喜びなり。
無辜なるものの再来を
吾は待ち続ける」

今日も天は晴れている
殴る手が真っ赤になった、
畦道の脇に落ちたトマトそっくりに
男二人は押し問答
それから幾夜か経って、
あるものはなくなり、
ないものはありつづけた
見つめるだけのものが
口を噤んで笑ってた
畑に差したかざぐるま、
からからからから歌ってた
からから
かっから
からん


自由詩 欲のありて思ふこと Copyright 竜一郎 2006-02-13 16:08:49
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