南風
あおば

まだ寒の内というのに
南風が吹いてきて
夏の気配を運んできた
もう冬季オリンピックは
終わってしまったのだ
それにしては静寂で
明るい昼下がりだ
夏の孤独に満ちている
長野オリンピックは
終わってしまったのだ

チエすごい
見上げると青空に白い彫刻
歓声の中で丘を駆け下る
青空に陽光を浴びて
ジグザグに滑ってくる
浮かんでいる
期待あふれる
チエすごいモーグル優勝
青空に金メダルが輝く
たくさんの祝福の笑顔の中に
ヒロインの影が拡散して
どこまでもどこまでも続く
青空に白い彫刻の群れ



冷たく暗い森の中に
スキー選手が次々に消えていく
湿った重い雪を掻いて駆け上る
あえぐ背に背に運命の重量が増す
命がけの声援を浴びて
懸命に走ってくる
すべらない 走らない
すべらない 走らない
雨の中でレースは終わってしまった
私はいつまでも帰らないで
暮れゆく雪の中で選手が来るのを
永久に待っている

青空に飛行機が飛んでゆく
岡部が飛んだ、原田が飛んだ、
舟木が飛んで優勝だ
感激の一瞬
耐え難さを耐えた四年間の涙
沸き返る


ナガノ アリガト
サラマンチ会長が叫ぶ
アリガトウ ナガノ有り難う
アリガトウ日本
青空に日の丸 君が代が唱和する

感激の一瞬がよみがえる
ナガノ アリガト
まことさん ありがとう
マッカーサー元帥 ありがとう

配送の東名高速の運転席
三機編隊が厚木飛行場から
西の空へゆっくりと
飛行機雲を棚引かせ
昇ってゆくのが遠くに見えた
いい絵になりそうだが
遠すぎて撮影するのは無理だ
撮る気も用意もないのに
そんなことを考えて
私はしばらくじっと見つめていた
昨日のことです。












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作1999/01/15

追記
チエとは
里谷多英選手のことです。
2007/01/03



自由詩 南風 Copyright あおば 2006-02-10 02:22:33
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