アフリカ
クリ

詩集『カエルトコ』より; 1



 ●アフリカ

いつかアフリカに
行くのではないかと思う
いつかいつか年老いて
総入れ歯になったその月に
アフリカに着の身着のまま
行くのではないかと思う



 ●優しい死

この土地はからだを蝕む
心をも削ぎ落とす
アフリカに 行かなければ

ここの人は金をむしり取る
安寧も詐欺に掠め取られる
世捨て人になるのさえ資格が要る

満員電車でゆっくり 定年まで
少しずつ事務的に殺される
うう
草食獣の暴走の中 あっという間に
歯を食いしばって死んでいきたい
5分の激痛と70年の鈍痛

アフリカの土埃 サバンナ 優しい目
怯えた 浄められたたましいの 欠片



 ●月極駐車場

体調を崩して帰宅する
昼下がり 蔑んでいるかのような閑静
「月極駐車場」 もうすぐ家
「空あり」 空がある
あああ ほんとだ 空がある
あの駐車場の上の 矩形の空はやはり
アフリカの空につながっているのか

ドアを開け 万年床に倒れ込む
「色即是空 空即是色」
クーのクーなるかな
アフリカのヌー
「ゴミ箱を空に…」 ほうり投げると
お見事 犀鳥のウルトラ・キャッチ
崩れたのは 僕の体調なのか
「机上の空論」 机の上の空は
阿弗利加のやうにあるへき

気がつくと まだ僕は外にいる
月極駐車場の前に 窮屈に行き倒れている
「空あり」 ああそうかい
隣にこんな看板
「永代アフリカ 空あり」
まだあるのかな 高いのかな あるのかな…



 ●痛い

生きたまま食われるのは 痛いだろうな
ライオン リカオン バブーン
コンドル チータ ひょう
ヒョーッ それからそれから…
ハイエナ いてえな それから…
とにかく痛いのは嫌だな
肋間神経痛くらい痛いのかな
アフリカにも義理人情があるなら
まず頭を食いちぎるのが作法だよ
間違っても腸から とかはやめてね
腸ーいたいし
宿便あるよ ポリープも
弱肉強食焼肉定食朝定食玉付
腐肉を貪る凶暴で醜悪な イボイノシシ
…いないか そんなの

痛いだろな 恐いだろな
ジタバタするだろな 死ぬほど暴れるだろな
アフリカは 痛いな 日本と違って



 ●世界は君の肩に---象の花子の最近の悲劇

象は悲しいときに泣くのではと言われる
それはつまり演繹するに心があるということだからすごい
それはともかく痛いときにはたしかに泣く

僕が乗ったぐらいで大した違いはないのだろうが
鼠に齧られた足の裏が化膿して痛むらしい
黒い涙の染みがついている
僕が代わってあげてもいいんだけど遠慮するだろうな
最近 太ったから とか 言って



 ●宅配ンジャバカ弁当

通販のサイトで「ンジャバカ弁当(?1,980込)」を見つけた。
ただし、なるべく5個以上まとめてお買い求め下さいと注意書きがある。
〜作り立てのフレッシュなンジャバカを現地より30分以内に発送します。
「現地」とはアフリカのビンジダのことだ。30分にどれほどの意味があるのだろう。
空輸に数十時間を要するのに。おまけに船便を選ぶこともできる。
だいたい「ンジャバカ」って何だ。〜生ものですからお早めに…、とある。
こ、これはジョークだろうか。「それじゃ馬鹿」に引っかけたシャレだったりして。
いや、ビンジダ食料大臣賞受賞とある。顔写真とサインもある。

モーガン・フリーマンそっくりだけど…。

ちょっと食べてみたいな。
でもしかし、「ン」で始まる食べ物ってどうなんだろうな。腐りそうじゃないか。
注文しようかな。5つ。興味あるじゃん。だって「ンジャバカ」だよ。
「ねえ、ンジャバカ弁当、もう食べた?」って気取ってみたいだろ。
よかったらひとつ、どう? なーんて太っ腹なところ、見せたりもして。
モノハタメシだ。〜お申込はこちらへ、と。
あれっ、売り切れかよー。まいったなー。
あっ、これは? 「ンジャ単品」ンジャ、単品??
これも、売り切れか。


「バカ単品」

これは、
罠かもしれない…。



 ●紅鶴

フラミンゴ=べにづる
これはまだ、日本の子供たちが優しかった頃の実話
その頃アフリカの東側のある国で
とてもとても元気のない子供たちがいっぱいいると
みんなみんな困っていると、そう聞いた健太は
クラスのみんなと協力して、千羽鶴を折ったんだ
アフリカのおともだち、元気になりますように、って
心を込めて一人100羽、みんなで4千4百羽
それはそれは色とりどりの千羽鶴がアフリカに向かったんだ
アフリカのお友達は目がらんらん、なんだろなんだろ
フラミンゴだ。全部開いてみた。なんにも入ってなかった
アフリカのお友達は弱々しく鶴に血反吐をかけて
寄り添って死んでいったって。折り紙食べた子もいたって
健太はそんなことも知らずに大きくなって
今は一戸建てにミーアキャットを飼っています
まだ日本が統治下にあった頃のおかしなお話です


                                  Kuri, Kipple : 2000.12.06


自由詩 アフリカ Copyright クリ 2004-01-31 02:09:45
notebook Home
この文書は以下の文書グループに登録されています。
カエルトコ