手のひらの大きさ
ベンジャミン


生まれたときから
親指が無かったのだと

その子はいつも
両手をポケットに入れて
両手を使わなければならないから
雨が降る日は嫌いだと

右利きなのに
五本そろった左手で書く文字は
皆よりもかっこ悪くて
それをいじめる子もいました

もしかしたら
僕もそういう目で
見ていたのかもしれません

泣いた顔を隠すとき
足りない指の隙間から
見えてしまう涙の筋が
細く線を引いていました



幸せは
手のひらを転がって
悲しみは
手のひらから溢れてゆきます



すぐに転校してしまった
その子は今
幸せでしょうか

あの頃の僕は幼くて
あの頃の僕には
足りない指の淋しさが
わからなくて

雨の日
傘を支えるほどの
ほんのわずかな優しさが
成長した今でも
僕の手のひらには足りません

大きな手に憧れて
いっぱいに広げた指の隙間には
今も
あの日あの子が流した涙が
溢れ続けているようで

一つ二つと
数えながら折る指の
一番最初にあるはずの

親指が淋しげに
手のひらを隠そうとしています

あの日あの子が
隠そうとした涙よりも

隠しきれないものがまだ
僕の手のひらを小さくしています



       



自由詩 手のひらの大きさ Copyright ベンジャミン 2006-02-08 09:14:52
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