終わり
アンテ

                                 (喪失の物語)


森の奥深くにひそむ家で
少女は長いあいだ一人きりで暮らしてきたが
一生に一度くらいは
だれかに囲まれて生きてみたいと考えて
あたりの土を固めては一人
落ち葉をかき集めては一人という具合に
自分そっくりな人形を何体も作り上げた
人形たちはまずまずの出来映えだったが
どれだけ待っても動き出す気配がなかったので
少女は気落ちして人形作りをやめてしまった
窓辺の椅子にすわって
毎日人形たちを眺めてすごすうち
自分の大切なものを与えれば
生命がやどるかもしれないと考えて
一体ずつ順番に
我が身の一部を切り取っては人形の胸に埋め込み
最後の人形に与えおわった時には
少女の存在そのものがなくなってしまった
しばらくすると
人形たちの胸が鼓動を刻みはじめ
次々と目を覚ました
彼女たちは自分の状況がよく理解できず
なぜ森の家で目覚めたのか判らず途方に暮れて
寄り集まって知恵を出しあってみたが
最後まで少女の存在に思い至ることはなかった
せっかく目覚めたのだからと
みな森の家を去って方々へ散り
それぞれなにかを志した
毎日のくり返しは忙しなく
彼女たちは互いのことを思い出すゆとりもなかったが
夜更けにふと目をさました時
人混みのなかで立ち止まった時
そこにいてはいけないような気がして
淋しい気持ちになった
手を胸にあてて
そこにないもののことを想った






自由詩 終わり Copyright アンテ 2006-02-01 01:31:45
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