一日は、臨界する空の
霜天

いつか
笑い飛ばせる日のために
一枚の部屋に絵を描いている
暖かい一日の始まりと終わり
そこに溶けていく人たちのように



降り積もる行き止まりに
立ちすくむ人を見ている
その背中を通過できなかった季節が
私の前で濃くなっていく
お気に入りの角を折れていったことを
誰かが覚えていたとしても
そこで笑うしかなくなって
いつも、階段を下りていく


今日も装飾された窓辺から
夢見がちな路地を走る少女を追い掛けている
その行き先は、言葉にしても届かない
偶然、昨日にすれ違えば
ただ、まっすぐに金色の
月を見ていた
帰る場所なんだと、信じることにして


駅前のコンビニに属する人達は、誰のためにやさしいのか
そんなテーマを、原稿用紙にまとめなければならない
発表は、そのうちに
口頭で伝えるにしたって
一日じゃ当然の顔で、足りない

そう、きっと足りないんだ

 そんな日もあったねと
 そんな日ってどこだっけ、と
 笑いあう
 昔話の循環する音だけが響く
 そんな日のために



順路の向こうで母親の顔が心配そうに笑う
何かに気を付けろだとか
牛乳がどうしたとか、言っている
けれど、上手く聞き取れない
とりあえず、大丈夫だよ、とボールを投げておいて
返ってくるのを待っている
父親の顔は無表情に笑いながら、回転している
昔から、キャッチボールだけは得意だった


バスの運転手が行き先のアナウンスを
今日は自分の声で告げているけれど
次第に周りの景色とは関係ない
話ばかりになっていく
「次は、次は──」
その後が続かないバスの中は
誰かが泣いている気配がした
僕だったかもしれない


疲れた顔で歌う二人組み
ギターをかき鳴らして
誰かのために歌っている、はずで
どこかで聞いたことがある気がして
おい、それは僕の言葉だと
掴みかかろうとするけれど
自分のもののはずの言葉も
どこから来たのか
結局思い出せない



僕らが空の、境界に触れると
今日が今日の終わりだと、ようやくで気付く
一日は、臨界する空の向こう
いつまでも小さくならないので
ここで夕暮れる世界の音を
いつまでも聞いている、ことになる

一枚の部屋に絵を描いている
いつか、そんな日のために
過ぎ去ったものが透明な箱に入れられて
見えなくなる
そうなる前に

ここで、一日が閉じる


自由詩 一日は、臨界する空の Copyright 霜天 2006-01-26 01:43:59
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